第7話 「若いんだから、仕事を見つけて、ちゃんと働きなさい」そう言える人は、豊かな人でしょ?弱い立場いじめ。

 「私…」

 「何?」

 「60 00円だったか、70 00円で、取引をしてしまいました」

 「取引?何の?」

 「ネットカフェを何回か使えるようにする、取引」

 「…」

 「若いんだから、仕事を見つけて、ちゃんと働きなさいって怒る人たちが、います。そう言いたい気持ちは、わからなくはありません」

 「ええ」

 「…でも、本当のところは、わかってないと思う」

 「…」

 「弱い立場の人に向かって、平気でそう言えるのは、ほぼほぼ、豊かな人。弱い立場いじめ」

 「でも…」

 「何、ナエさん?」

 「あなたたちの世代も、私たち就職氷河世代の人から金をもらって、生きてきたんじゃないの?」

 「…」

 「子ども手当に、定額給付金。また、定額給費金。受験は、楽。就職も…」

 「ナエさん!」

 「何?」

 「私たち、就職、大変なんですよ?」

 「わかってる」

 「なら…」

 「でも、大変っていうのは、あなた方世代の基準」

 「…え?」

 「私たち、就職氷河期世代の基準で、採用試験とかやれば、今どきの子は、落ちます」

 「…」

 「今は、人材不足社会」

 「…」

 「だから、あなた方を、合格させているだけ」

 「でも、私たちが…」

 「私たちが決めたことじゃないから仕方がないって、言える?」

 「…」

 「ごめんなさい」

 「…」

 「言いすぎました」

 「ナエさん?私も、言いすぎたかも…」

 「…」

 「女性って…、弱い立場は、つらすぎるよ」

 「そうね」

 「…生きにくいもん」

 「…」

 「60 00円だったか、70 00円を稼ぐために、知らない男に、身体を預けなければならないだなんて…」

 「…」

 「弱い立場の女性の、現実」

 「…」

 「私たちは、社会のレールから、はみ出してしまった」

 「…」

 「ガチャで、当たりを引けなかったからなのよ!」

 「その言葉は、どうか、使わないで!」

 「…ナエさん、ごめんなさい」

 「…」

 「…ガチャの言葉を使っちゃったら、もう、はい上がれなくなっちゃうもの」

 「うん…。私は、だから、家から出なくっちゃならなくなったんだ」

 ナエを頼ったその女性は、家出に慣れてしまっていたという。


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