第2話 鍵っ子の人って。お姉ちゃんが、ヤングケアラーのボランティアをしている、あの…。何を、したって、黙らされちゃうの?

 やっと…。

 しぼるに、しぼれない声。

 「あ…の…」

 怖かった。

 「…ちゃぷん」

 湯の音が、せつなすぎた。

 「…なんで?どうして、ふろばに…っていうか、いえに、はいってこられるの?げんかんのかぎは、しめたはずじゃないの!」

 声にならない声が、頭の中を、かけめぐっていた。

 「…大きくなったね。しっかり、課長でがんばっているからねえ。ひひひ。公務員は、民間人を守るのも、仕事なんだ」

 「うう…」

 妹の声。

 小学生らしい、小さな、うめき…。

 「…どうやって、はいれたの?」

 「どうだ?学童保育所の、スーパー指導員のようだろう?指導員も、公務員。俺も、公務員…」

 「がくどう…?」

 「キヒヒヒヒ」

 「おねえちゃんが、ヤングケアラーのボランティアでいっている、あの…」

 「そうだとも」

 「…」

 「建物は、違うがね。こちらが勤めているのは、教育課の統治する、スーパー建物だからなあ。キヒヒ」

 「…どうして、どうして、いえにはいれたのよう」

 「俺は、…鍵っ子だからだ」

 鍵っ子!

 男は、裸姿で、風呂に入ってきたという。

 「心配は、いらないよ」

 そんなこと、いわれたって…!

 この人…

 この人…。

 ほんとうに?

 ほんとうに、おとうさんなの?

 「さあ。公務員と民間人の、コミュニケーションだ」

 「…」

 恐ろしくて、恐ろしくて…。

 声なんか、出るはずがなかった。

 「民間人を気遣うのは、公務員の役割なんだよ?キヒヒ。身体を、洗ってやろうじゃないか?」

 「…や」

 「声が、出ないのかな?」

 「…やめ」

 「怖くなんか、ないよ?正職員、なんだから」

 姉は、いなかった。

 母も。

 弱い立場の声は、声にならなかった。

 たすけて…。

 おねえちゃん…。

 たすけて…。

 おかあさん…。

 彼女は、小学生。

 弱い、女性は…。

 何を、したって、黙らされちゃうんだ。

 「…」

 「正職員は、性職員。良いね!ヒヒ」

 「やめてえ!」

 ようやく、まともな声が出た。

 「ちっ。これまでか…」

 男は、風呂場から、出ていった。

 男の行方は、誰も、知らない。

 羅生門。





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