問19.問題を解く前にやるべきことを答えよ
七月十三日。運命のマーク模試まであと六日。
「きょーちゃんせんせ、今日は何を教えてくれるの?」
昨日に引き続き、今日も僕たちは放課後の図書室へ勉強に来ていた。
期末試験が終わったからか、図書室はまた閑散とした空間に戻っている。そのため、以前のように机を挟んで向かい合う講義スタイルで、僕たちは席についていた。
だが……。
「いや、ここからは新たな単元についての講義は行わない」
首を傾げる白瀬に、僕は言った。
「テスト直前に新しい知識を詰め込むのは悪手だ。マーク模試まで一週間を切っているからな。問題演習をメインに、分からなかった部分だけ確認していこう」
今回のマーク模試で出題される英語の単元は、これまでの勉強会で一通り学習済みだ。ここからは実際に問題を解いて、これまでに学んだことを復習しつつ、知識を確実なものにした方がいい。
「暗記はインプットよりアウトプットしたときの方が定着する、だもんね」
白瀬が元気よく言った。いつかに僕が教えた、暗記の基本。
「ああ。本番を想定して、時間も計って解いていこう」
「うん!」
◇
「なんか、思ったより伸びなかった、ね……?」
マーク模試を想定した問題を一通り解き終わり、採点まで終えた白瀬は、気まずげに僕の方を見た。
「……まぁ、最初はこんなもんだろ」
励ますように声をかけるも、僕の動揺が伝わってしまったのだろう。白瀬の表情は却って曇ってしまった。
改めて、白瀬の答案用紙を確認する。
国語(100点満点) 59点
英語(100点満点) 52点
合計 111点
学年で30位以内に入るには、二科目の合計で150点はほしい。僕が勉強を見始めて最初に解かせたテストでは、英語は200点満点中25点しか取れてしなかったため、それを思えば驚異の成長具合だが、目標達成までの道のりは思っていたより遠そうだ。
白瀬の答案用紙を確認していて、僕はふと、あることに気付いた。
「なあ白瀬。もしかして、時間内に解き終わらなかったんじゃないか?」
比較的正答率が高い前半に比べ、最後の大問は見るからに正答率が低い。まるで、問題文を読まずに適当に答えを選んだみたいに。
僕の問いに、白瀬は
「……うん。なんか、分かる単語とか、知ってる文法が増えた分、悩んじゃって」
と、眉根を寄せて答えた。これはもしかして……。
「白瀬は模試を解く際、何から始める?」
「なにって、まずは名前を書くでしょ?」
ああ、と僕は頷き、次は? と促す。
「次は、問一の問題をみて、マークを塗っていって」
白瀬の回答を聞き、僕は「なるほど」と頷いた。
「なるほどって?」
何がなるほどなの? と首を傾げる白瀬に、僕は言った。
「白瀬、模試の問題を解くときの手順を教えよう」
「手順? 普通に前から問題を解いていくんじゃ駄目なの?」
「ああ。実際、それじゃあ間に合わなかったんだろう」
僕の指摘に、白瀬は「うぐ」と声を詰まらせた。
「いいか。模試を解くときの手順はこうだ」
①問題の構成を確認する。
②時間配分を考える。
③最初に解く問題を決め、その問題の設問から先に読む。
マーク模試は学校の定期テストと異なり、問題の英文が長い。時間がシビアになるため、効率よく問題を解いていく必要がある。
そのために必要なのが①問題の構成を把握すること。そして、②時間配分を考えることだ。
考えても分からない問題に、無駄に時間をかけすぎないためにも、どの問題を何分くらいで解くのか、事前に決めておく必要がある。
また、英語でも国語でも言えることだが、問題を解く際は、問題の本文ではなく先に設問を読んだ方がいい。
問題用紙を頭から素直に読んでいては、何に注意して本文を読めば良いのか分からないし、「本文を読む→問題文を読む→もう一度該当箇所の本文を読む」となってしまい非効率だからだ。
そのように説明をすると、白瀬が口を開いた。
「あいら、みんなが問題を時間内に解き終わるのは、みんなの頭があいらより良いからなのかと思ってた! でも、こんなワザもあったんだね!」
きらきらした目でこちらを見つめ、やっぱりきょーちゃんはすごいなぁと呟く白瀬。
「技というほどのもんでもないけどな」
むしろ、みんな当たり前にやっていることだと思っていたから、白瀬がこの手順を踏んでいないことに今日まで気づけなかった。今のうちに気付くことが出来て、本当に良かった。
「じゃあ、今日は帰ったら、さっき教えてもらった方法で解いてみる!」
「ああ。分からないところがあったら、いつでも訊いてくれ」
いつの間にか、図書館の閉館時間が迫っていた。僕は白瀬に模試と同じ形式の、まだ白瀬が解いたことのない問題を手渡し、帰り支度を始める。
「きょーちゃんは今日も自習室?」
白瀬の問いに頷いて肯定する。
「期末終わったばっかなのに、きょーちゃんってほんっと昔から努力家だよね。えらいなぁ」
「べつに。勉強を頑張るのは、自分のためだからな」
反射的にそう返してから、ふと引っかかりを覚える。
……昔?
白瀬と初めて会ったのは、高校二年生の四月、同じクラスになってからだと思っていたが。
気になって訊ねようかと思ったが、「じゃ、また明日ね!」と白瀬は元気よく帰って行ってしまった。
「あ、ああ。また明日」
まぁ、どうせマーク模試までは毎日勉強会を開くのだ。明日の勉強会の時にでも訊ねればいいだろう。
そう考えて、僕は自習室へと向かう。
これが、マーク模試前最後の勉強会になるなんて、この時の僕は考えもしなかった。
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