第10話 相談を受けるということは、意外に、難しい作業。ある部分に、その子の家に隠された痛みが、見えてきそうになったしさ。

 「おじいちゃん…」

 「何が、あったんです?」

 毎晩のように、天井と、お話をするようになっちゃったんだという。

 「…」

 その子の祖父は、それからすぐに、会社を辞めたという。

 その子の付き添いで、役所の窓口にいき、専門家やケアマネジャーに相談。ヤングケアラーの子の疲れは、痛ましかった。

 要介護度を、再申請。

 今度は、要介護度は2と、いわれたそうだ。

 「おれ、つかれたよ」

 「そうなんだ…」

 その子は、専門の医療機関にまで、付き添ってあげていたという。

 「そうしたら、すぐに、3に上がっちゃった…」

 「要介護度、3…」

 介護サービスの利用限度額が、上がった。

 訪問介護を、追加。

 「でもね…」

 「何でしょう?」

 「おじいちゃんが、てんじょうとおはなしすることが、ふえちゃっただけ」

 「…」

 在宅介護は、限界。

 その子の祖父は、グループホームに、移ることになったという。

 「…今は?」

 「え?」

 「今も、おじいちゃんは、グループホームにいるの?」

 「うん」

 「そっか…」

 その子の目が、震えだした。

 「ハナさん?」

 「はい」

 「コロナだからっていうことも、あるけれど…。いろいろあって、おじいちゃんとのめんかいが、できなくなっちゃった」

 いろいろあっての部分に、並々ならぬ、その子の家に隠された痛みが、見えてきそうになった。

 「そのことに、触れても良いのかなあ…つらい」

 相談を受けるということは、意外に、難しい作業だった。

 「ああ…ハナさん?」

 「どうしたんですか?」

 「おれも、しょうらい、おじいちゃんのように、しごとを、やめなくちゃならなくなるのかな?つかれる…」

 弱音。

 これは、困った。

 疲れるという言葉が、自然に出てくるようになっちゃっていたんだ。

 いくつもの矛盾が、軋んでいた。

 「家族の介護力は、弱まる一方だなあ…」

 専門家は、こう指摘した。

 「家族介護は、大切だ」

 そりゃあ、そうだ。

 「家族が家族を介護するのは、当たり前」

 本当に、そうなんだろうか?

 「社全体で、何としても、後押しをしたい」

 そう考える企業も、増えた。

 けれど、徹底されていただろうか?

 19 95年、育児と介護に関する法律が制定された。旧労働省は、介護休業を取得できる制度を整えようとした。

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