第9話 え?この家庭って、何?不思議な家庭に思えるんですけれど…。要介護のおじいちゃんも、働き続ける。日本の、縮図だ。

 「1わりふたんでも、やれることはやれた」

 良く、わかっている子だった。

 「お母さんは、医者なんでしょう?」

 「うん」

 「私、ちょっと、気になる」

 「え?」

 「あのね?誰かを助けるのに、金がどうこうじゃないとは思うんだけれどね…?」

 「え?」

 「本当は、1割負担じゃなかったんじゃないの?」

 「どうして?」

 「豊か、そうだから」

 「オザキ?」

 「違うって」

 「うちは、ゆたかじゃあ、ないよ?」

 「違うの?」

 「うん」

 「豊かじゃあ、ないの?」

 「うん」

 「お母さんは、医者でしょう?」

 「うん」

 「2割負担額の対象とかには、ならないの?」

 「ならない」

 「そう」

 「だって…?」

 「え?」

 「うちには、そんなに、金ないもん」

 いよいよ、不思議な家模様に映っていた。

 どういう、家…?

 が、それ以上は、突っ込まず。

 介護サービスの利用額が、1割負担の利用限度額を超えないよう、ギリギリの線で計算し、がんばっていたという。

 金額に気を付け、1割負担額内でやっていたのは、介護の長期化を恐れてのことだったという。介護が長期化すれば、それに見合う介護サービスを続けていかなければならなくなるから、金が、消えていく。

 その悪循環を、恐れたのだ。

 祖父は、何度も、夜中に起きて、家のまわりを歩き回っていたという。

 「どうして、歩き回っちゃったのかな?」

 「おじいちゃんか?」

 「そう」

 「しんだおばあちゃんのまぼろしが、見えたからじゃないのか?」

 「そうなの?」

 「だってさ…」

 「何かな?」

 「…もう、うわきせんから、ゆるしてくれって、てんじょうにさけんでいたから」

 「そうなんだ」

 ちっとも、笑えなかった。

 祖父は、定年退職後の再雇用で、週に2度ほど、地元の会社にいっていたという。

 「…おじいさんは、偉いんですね」

 「っていうのか、すごい」

 「ですね」

 「おじいちゃんは、ずっと、はたらくんだよ」

 「ずっと、働くんだ…」

 日本の縮図が、見えた。

 「おじいちゃんは、ずめんをかくのが、とくいなんだ」

 「そうなんだ」

 「うん…」

 「働けて、良かったですね」

 「でもね…?」

 「何でしょう?」

 「…」

 「…」

 「おじいちゃん、さ…」

 「どうしたんですか?」

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