第8話 ヤングケアラーを取り囲むいろいろな家庭が、他人に話しにくい、いろいろな事情を抱えながら動いているんだよ。

 「アルツハイマー?」

 「そう」

 「痴呆の、あの、アルツハイマー?」

 「そう」

 「小学生なのに、偉いのね」

 「そうか?」

 「そういう言葉を、良く、知っていましたね」

「おれのおかあさん、いしゃ」

 「医者?」

 ヤングケアラーは、奥深し。

 「おじいちゃんから、なんども、でんわ。かぞくからだから、あまり、気にしなかったんだな。…ともだちからのでんわなら、気にしたけれど」

 この子の人付き合いって、何?

 授業の休み時間になってから、祖父に、かけ直したという。

 「…おじいちゃん?どうした?」

 このとき、思いもしないことを、言われたそうだ。

 「…あんた、誰じゃ?」

 「おい、おじいちゃん?」

 「誰じゃ…?」

 「おれは、かわいいまごじゃないか」

 「おや…?」

 「え?」

 「わしに、孫なんて、いたか…?」

 「え?」

 明らかに、おかしなことになっていた。

 「おじいちゃん?じゃあ、どうして、でんわしてきたんだ?」

 「あんた…誰じゃ?」

 「いや、だから…」

 「誰なんじゃ?」

 「おじいちゃん?」

 「何を、言っておるんですかね。どなたかは、存じませんがねえ…」

 「おい、おじいちゃん!」

 まさか、こんなことになるとは!

 「まいったよ…」

 「そっか…」

 心を、休めた。

 会話を、一旦、やめてあげなければ、ならなかった。

 コミュニケーションをとらないコミュニケーションも、ときには、有効だと思えることがあるのだ。

 「おじいちゃんは、めんどう」

 「そうですか」

 「おかあさんは、いしゃでいそがしいし…」

 「…」

 父親が、介護をすれば良かったのに!

 …などとは、絶対に、言わなかった。

 ヤングケアラーを取り囲むいろいろな家庭が、他人に話しにくい、いろいろな事情を抱えながら、動いていたわけだし。

 その子の祖父は、その子が小学校の低学年時は、要介護度が、1に落ち着いていたらしい。

 ヘルパーに頼んで、週に、5回ほど、食事を作ってもらっていたそうだ。デイサービスに、デイケアを併用して、やり繰りしていたという。

 「介護の利用者負担って、見直されていたでしょう?」

 「うん」

 「負担は、問題なかったの?」

 「うん」

 「そっか…」




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