第7話 小学校の授業中、ある子の携帯電話まで、何回も、着信がきたらしい。「おじいちゃんは、アルツハイマーなんだ」

 その子は、食堂にいるまわりの人を見ていた。

 もちろん、見ていただけでは、何の反応もなし。

 「誰も、何も、言ってこない。それで良いよね」

 そうして、また、まわりを見ていた。

 同じように食事をとっている子を見ては、安心していた様子。

 「皆が、生きているんだ。苦しんでいるのは、私だけじゃないんだ」

 そう確認できる、最善の方法だったのだろう。

 そうして、その子は、元気を取り戻して、精神病棟に戻れるようになるのだという。

たくさんの悩みが、渦巻いていた。

 他の、子も。

 「あの…」

 「あなたは?」

 「ははは…。何ども、この子どもしょくどうに、きています」

 「そうでしたか。何度も良く見る子だなあって、思っちゃった。驚いちゃって、ごめんなさい」

 「良いって、良いって」

 その子の悩みは、祖父の介護。

 ヤングケアラーとして悩む子は、本当に、多かった。

 「あのさ」

 「何でしょう?」

 「じゅぎょう中に、さ」

 「あら。ちゃんと、学校には、通えているみたいね?」

 「うん」

 「中学校、かしら」

 「小学校」

 「ごめんなさい」

 「…それでさ」

 小学校の授業中、その子の携帯電話まで、何回も、着信があったという。

 「携帯電話?」

 「うん」

 「おお。小学生でも、持つのか」

 「本当は、スマホを買いたかったんだけれど、お金がなくて…」

 「…今どきの子は、ませてるわねえ」

 「ませてる?」

 「…」

 「まあ、良いや」

 「…」

 心配になってしまって、かえって、何も、言えなかった。

 その子と祖父には、何があったのだろう?

 「そうだ、そうだ」

 「おねえちゃん、なんだ?」

 「話の続きを、しましょう」

 「つづき?」

 「小学校の授業中に、何度も何度も、連絡が入ったんでしょう?」

 「うん…」

 「すぐに、電話してきた人に、かけ直したの?」

 「ううん」

 「そう」

 「なれていたし」

 「そっか…」

 「でも…」

 ただ事では、なさそうだった。

 「誰かから電話がきたわけで、心配になったでしょう?」

 「うーん」

 「着信は、誰からだったの?」

 「でんわしてきたのは、おじいちゃんだった」

 「そっか…」

 「おじいちゃんは、おれがいないと、なにもできないんだよな」

 「言うわねえ…」

 「おじいちゃんは、さ」

 「はい」

 「アルツハイマー、なんだ」

 





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る