第6話 児童相談所に、子ども食堂へ。「あの…」 ためらいの多い、流れ。それくらい、ヤングケアラーの子たちは、追い詰められているんだ。

 でもね?

 誰かを思いやると、いうこと…。

 それは、必ずしも、美談じゃないから。

 父親は、家で、休憩。

 出かけたのは、その子だけ。

 児童相談所、にて。

 「…そうですか。悩んでらっしゃるのですね」

 「…はい」

 「ここまで、いけますか」

 「え…?」

 「きっと、相談に乗ってくれるはずです」

 「…」

 「ここは、子ども食堂です」

 「子ども食堂…」

 助けられたと、思えた。

 役所のたらい回しなんかじゃないと、安心。救われたんだ…。

「子ども食堂へ、ようこそ」

 「…これを、どうぞ」

 「これって、名刺?」

 「…」

 「相談ですか?」

役所の窓口でもらえた名刺を、見せた。

そして、今の状況につながる。

こうして、この、子ども食堂にきていたのだ。マキハタヤマハナのいる、この、子ども食堂へ。

 「…ハナさん?」

 「はい?」

 「…えっと」

 「この子ども食堂では、何を話しても、良いのですよ?心配、しないで。私、ボランティアですけれど」

 「でも…」

 「同じ、中学生。同じ、女性ですし」

 「はい」

 「何でも、言ってくださいね」

 「…あの、ハナさん?」

 「はい」

 ためらいの多い、流れだった。

 それくらい、ヤングケアラーの子たちは、追い詰められているんだ。

 「私のお父さん…、その、精神疾患があるから…」

 「はい」

 「自分自身の食事を用意できないことも、あります。おなかをすかしても何もできないことが、多いんです…」

 「…部活動とかで、何かに打ち込んでいたり、しますか?ストレス解消につながりそうな何かは、していますか?」

 「していません」

 「そうですか…」

 「家族介護以外のことに打ち込む時間なんて、とれないんです」

 「…そうですよね?」

 か細い同調に、なっていた。

 「私自身の心を休める余裕なんて、ありません。この時間のように、お父さんが専門医に診てもらえている間だけが、私の時間です」

 「…」

 「…でも、良いのかな?」

 「え?」

 「私、悪く言ってしまえば、精神病棟から逃げ出して、この子ども食堂にきちゃったようなものです」

 「…」

 「私…。食べ終えたら、精神病棟に戻ります」

 「わかりました…」

 その子は、この、子ども食堂にいられる時間を大切に使わなければならないんだと、何度も、言っていた。





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