第2話 仕込み

武藤俊哉は、デスクワークをこなしていた。

一流大学卒で178㎝、そして都内の銀行で働いている。


しかし、今の武藤は粉飾決算の後始末に忙しい。


この銀行の粉飾決済は、もう三十年間の”伝統”で、自分がやるターンが回ってきたものの、本当に税務局の目をくぐらなければいけないので大変だ。


武藤はいつの間にか、粉飾決済の補填を自分の給料からさっぴかれていた。

それも、相当な金額である。


上は、自分が捕まったら全部の責任を負わせるつもりでいるし、それを避けるのも難しそうだ。

なんせ、ほとんどの証書に自分のハンコが押されているのだから。


「・・・なあ、お前も貧乏くじ轢かされたなあ、武藤」


缶コーヒーを飲んでる先輩の口から、缶コーヒーの匂いがした。


「五年前は俺がやってたんだ・・・それを、エリートのお前がなあ」


先輩はそういい、ニヒルな感じで笑う。

「ここは給料もいいと思っていたんですけどね・・・」


武藤はぼやく。

逃げたい所だが、逃げた後の金がない、というのが正直な所だ。


「俺は・・・当たったんだ」


「当たった?」

ニイ、と先輩は笑う。


「スルメゲーム・・・知ってるだろ?」

「例の500億をかけた、デスゲーム・・・死人が多すぎて、共和政府から止められそうになっているという・・・」


「その抽選・・・俺は当たったんだ・・・!」


「先輩、まさか行くつもりですか・・・? 殺し合いのゲームなんですよ?」


「ちょっと殺しただけで500億のゲーム、やらねえほうが馬鹿だ」


「そんな・・・そもそも、本物の抽選券なんですか?」


「何?」

「今、スルメゲーム詐欺とかって、割と聞くじゃないですか? 券はあります?」


「まさか! ちゃんと確認したよ」

そう言いつつ、先輩は慌ただしく懐をまさぐる。


「ほらよ」


『抽選番号201,鈴木様へ


絶対に紛失しないように!


他人に譲渡する場合も、連絡が必要です。×バツ△ 99888』


と書かれている。


「本物でしょうか・・・?」


武藤は自分も自販機から缶コーヒーを二本買い、先輩に一本渡して自分も飲んだ。


「まあ、どうぞ先輩」


「なんだ? オゴってくれるのか?」


「よく似たものが他にもあるんじゃないですか? やはり、確認しなおした方がいいんじゃ・・・?」


「馬鹿をいうな! 本物さ」


先輩はグビリとコーヒーを飲む。


「その・・・ほんもにょに、決まって・・・はれ? はら? 舌が・・・・」


先輩は酔ったかのようだ。


「先輩、やっぱりコレは僕が行きますよ。ね? 譲渡していただいた場合のみ、飲ませた毒薬の薬を渡しますので」


「ぐ・・・なんれ・・・?」


「先輩が、これを手に入れたという情報は掴んでいたので、缶コーヒーに毒を少し。僕は事前に解毒剤を飲んでいましたので。さあ、先輩、これを僕にください」


「ぐ・・・クソが・・・!」


先輩は倒れた。


名前も覚えてなかったが、いい人だったように思う。


「あらら? 死んじゃった。まあいいか、電話をかけて、と」


「ハイ、”スルメゲーム管理者”です」


「ええと、201番の鈴木さんから、チケットを譲渡されまして、エエはい。ええと、これのQRコードですね。あ、ハイ」


「ええ、では武藤様が、鈴木様の代わりということで、ええ、では一週間後に輸送しますので、抵抗などはなさらないようにね。しっかりと、殺し合いの準備をしておいてください」


武藤はにこりと笑った。


後は、仕込みをやり、決行するだけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る