第16話 こういう家庭も、悩んでいるらしいよ?親ガチャで良い思いができそうだなんて、軽々しく言わないで!

 「ふうん…」

 ナエの名前を聞いておきながら、彼女のほうは、名乗らなかった。

 「失礼だなあ」

 なんて、思わなかった。

 「…父親は、家から、出ていきました。私が、中学生になったころです。母親、私、妹の、3人暮らしになりました。父親は、公務員で働いていました」

 そう言われてしまうと、固まってしまいそうになった。

 「弱い子は、複雑?親が公務員で、何が、問題だったの?ある意味、親ガチャも、上手くいっていそうな感じなのに」

 家を飛び出さなければならなくなるくらいの何が、あったのだろう?

 「母親も、公務員さん」

 「あら、そうだったの?」

 何が、あったのだろう。

 「でも…」

 「はい」

 「公務員とはいっても、非常勤のほうの公務員。あ、ナエさん?」

 「え?」

 「今は、非常勤じゃなくって、有期雇用の職員っていったほうが、良いんでしたね。ごめんなさい」

 「…」

 「ナエさん?」

 「はい…」

 「母親は、ずっと、ストレスを、抱えていましたね」

 「そうなんですか?」

 「公務員さんも、常勤でもなければ、きついんですよ?」

 「そうでしたか」

 「悩んでいたら、公務員病が、出ちゃったみたい」

 「え?」

 「父親は、強い身分の、常勤職員でしたから」

 「…」

 「でも、母親は非常勤で…」

 「はい」

 「公務員のピラミッドとしては、自分の妻が、常勤たる自分の部下ということになってしまいました」

 「ええ」

 「それが、父親には、許せなかったようなんです」

 「え?」

 「…」

 「…」

 「だから、公務員病だって、いうんです」

 「…」

 父親は、ついに、母親に、手を上げはじめたという。

 「何だよ、お前は!勤務地こそ違っても、お前、たまに、俺の役所に、くるよな?そこで俺が、どんなに恥ずかしい思いをしているか、知っているのか?」

 言われても、何が何だかわからなくなっていく、母親。

 父親の勤務する、役所で。

 「見ろよ、君?あの女性が、やってきたぞ。出張か?弱い身分が、歩いているぜ。ひひひ」

 「…」

 「…」

 「公務員バランスが、崩れちゃうんじゃないか?」

 「…」

 「…」

 「あの人…。君の、奥さんなんだろう?」

 「…」

 ピンチ。





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