第15話 「こういうのを聞いてくれる人に出会えて、良かった」そう言ってもらえるのは、うれしいんだけれど。

 「こんにちは!」

 女性は、活発だった。

 「私と、同じくらいの年齢ですよね?親近感を覚えちゃって、つい、声をかけてしまいました。てへへへ」

 その女性は、どうやら、SNSと、格闘中。

「スマホって、便利なようで、怖いんですよ?」

 教えてあげた、ナエ。

 「そうなんですか?」

 「怖いですよ」

 「小学生にも、教訓になるでしょうかねえ?」

 「さあ、どうでしょう?」

 コロナ予防のマスクが、彼女の笑みで、ゆれ動いた。

 そう、そう。

  S NSは、怖いんだ。

 SNSを使うと、きつい世界に、簡単に、つながってしまうんだから。

 「…私、今日、泊まるところがない」

 SNSで、それだけを発信したとする。

 使ったのは、捨てアカウントと呼ばれるもの。

 そのときにだけ、使う顔。

 すると…!

 秒で、返信!

 返信してきたのは、すべて、知らない人たち。

 「泊まるところ、ないの?」

 「困ったね」

 「うち、くる?」

 「相談に、乗るよ」

 「俺の、連絡先は…」

 どういう気持ちで言ってくれているのか、悩むところ。

 「こちら、○○○区。遠い?」

 「隣りの、○○○区」

 「俺の部屋、使う?」

 「俺の部屋、今、誰もいないぜ。鍵、やるよ。くれば?」

 「家賃は、いらないから。くる?」

 「心配、いらないって」

 「これも、人助けじゃないのかな?」

 助けるという言葉には、弱かった。メッセージの1つに、気軽に、返信をしてしまった。

 「じゃあ、いっても良いの?」

 またまた秒で、見知らぬ波が返ってきた。

 「良いよ。迎えに、いこうか?」

 その女性は、そういうやりとりを、これまで何度もしていたらしい。

 「…そんな感じで、私、中学生の頃から、何度も何度も、家出を繰り返していたんですよ」

 「そうですか」

 「そして、何度も何度も、家に帰っていました」

 「家の鍵を、もっていたんですか?」

 「ええ。鍵っ子、でしたから」

 「…鍵っ子」

 ナエの心が、凍った。

「…こういうのを聞いてくれる人に出会えて、良かった。あの…名前、何ていうんですか?」

 「ナエ、です」





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