第17話 男と女って、案外、こういう関係だったのかも?どうして、その子の母親は、父親とは、一緒にいられなくなっちゃったの?

 他の人たちからも、ひそひそ話。

 「…ほら、あの人だよ」

 「え?」

 「奥さん?」

 「課長の?」

 「…」

 「え?そうなんですか?」

 「お前は、まだまだ入庁したてで、知らんだろうがな」

 「何ですか?」

 「ははははは」

 「…」

 「夫婦で、身分が違うんだ。困るよなあ。公務員バランスが、さあ…。ふひひ」

 「…ほら。あの人」

 「あの人?」

 「あの人」

 「あの人、課長の、奥さんらしいわよ?」

 「そうなの?」

 「出張だって」

 「雑用?」

 「みたい」

 「まじで?」

 「公務員夫婦が、これか…」

 「もう、やめたら?」

 「課長が、下向いてるし」

 「課長の部下が、歩いている。部下であって、奥さん。…プッ!」

 「うふふ」

 「どういう試験で、ここに、入ってきたのかしら?」

 「…」

 「うひー」

 「やめな、やめな!」

 「ぺろぺーろ!」

 「どっきゅん、コウムイーン!」

 公務員も、ここまできたのかな。

 帰宅後の父親の怒りは、収まらなかった。

 「お前がいるから、俺が、笑われるんだぞ!お前の、せいだからな。公務員が、おかしくなる!」

 いや…。

 公務員がおかしいのは、そこじゃないだろうけれど。

 父親は、何度も、母親、つまりは妻を殴った。

 「この、課長たる俺が!課長たる俺が!民間人から奪ったあの巨大な金を手に退職できなくなったら、どうしてくれる!」

 「…うう」

 「お前だって、わかっているはずだ!」

 「…うう」

 「民間に就職していたら、じゃまおじに、じゃまおばになるところだった!そうならなかっただけでも、良かったよ!俺らは、一般人が、がんばって働いてもらえた給料を巻き上げても良い身分だ!元気を、出せ!」

 「…」

 「心を、燃やせ!」

 「何よ…、その、偽レンゴク」

 「お前ら有期の非正規は、これだから、みっともないんだ」

 「あなた…」

 「真面目に働こうとしないから、有期の非正規になるんだ!」

 「…違うわ」

 「何?」

 「あなたとは、やっていられない。だから、バブルさんたちのように、死なないか待ちを、されちゃうのよ…」

 「自己責任だ!」

 「…違う」

 父親とは、一緒に、いられなくなっていた。





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