第2話

 緑を敷きつめた風景の中に点在する建物。

 民家や田畑の間の小径を、ゆっくりと移動する人影。

 時折り、目の前を通り過ぎる車。

 やがて、左手の方角にざわめきの気配が湧いて現れた。列をなして道路脇の歩道を往く十数人の集団だった。お揃いの黄色い帽子を被った子供たちと、それを挟むように前後に大人の女性がいる。どうやら保育園児と保育士の集団らしい。

 そのとき、反対側の右手からエンジン音とともに、一台の白い車が近づいて来るのが見えた。

 なぜか嫌な予感が胸をよぎる。

 僕は胸騒ぎに突き動かされるように、その車を視界に捉えたままベンチから腰を浮かせた。

 緩やかなカーブを通過すると、このバス停まではほぼ直線だ。次第に大きくなるフロントガラスを見つめながら、僕は予感が的中したことを悟って愕然とした。

 フロントガラス越しに見える運転手の頭が垂れ下がっている。居眠りか、それとも急病か。

 車の右の車輪がセンターラインを越えた。なおも車体は吸い寄せられるように右寄りに進路を変えつつある。あのままだと、反対車線を越えて田畑に突っ込んでしまうか、もし対向車があれば正面衝突だ。そして、車の進行方向には──。

 僕はとっさに左に駆け出していた。僕の視線の先には、保育士と園児の行列がある。

 何事かと彼らの顔が驚きの表情に変わった瞬間、背後の車が急ブレーキをかけたらしく、タイヤがアスファルトを噛んで悲鳴を上げた。

 ハッとして振り返る。

 間近に迫ったフロントガラスの向こうに、目覚めた運転手の驚愕の顔が見えた。

 彼は慌ててブレーキをかけると同時にハンドルを左に切ったのか、半ば制御を失った車体が園児の列のほうに突っ込んでいく。

「危ない!」

 叫ぶと同時に、僕は迫り来る車と行列の間に身を投げた。

 車体はスピン気味に横滑りして、運転席側のフェンダーが僕の腰のあたりにまともにぶつかった。鈍い衝撃が腰から全身に伝わり、僕は空中に跳ね飛ばされた。青い空が回転する。

 地面に叩きつけられる直前に、ガードレールを突き破って田んぼに突っ込んでいく車と、間一髪で危機を躱して茫然と立ちすくんでいる保育士や園児たちの姿が、上下逆さまの視界に映った。

 (良かった。子供たちは助かったんだ)

 ホッとすると同時に、僕は頭から路肩の舗装部分に激突した。頭蓋骨が潰れる感覚とともに、その瞬間、僕の意識は無に帰した。

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