平和なエルフの村にイ〇ンが攻めてくるなんて……

アワユキ

お客様感謝デー

「イ〇ンが……イ〇ンが攻めてきたぞー!!!」

 年若い見張りのエルフの叫びが村中にこだまする。

「ついに……この村にも来たか」

 老いた族長の口から呻きにも似たつぶやきが漏れた。

「チクショウ! こないだも近くの村が潰されたばかりだってのに!」

 血気盛んなエルフが怒りとも嘆きともつかない言葉を叫ぶ。


 イ〇ン……言わずと知れた、全国規模で展開されている大型スーパーマーケットならびに複合商業施設である。

 そのイ〇ンの魔の手が、この平和なエルフの村にも及ぼうとしていた。


「私たちには、先祖から受け継いできた伝統が、文化がある!」

「そうだ! 俺たちは今までの生活で十二分に満足している!」

「絶対に……イ〇ンなんかに負けたりしない!」


 抵抗の意思が折れるのは早かった。


「んっほおおおおお! 品揃えしゅごいのおおおおおお!!!」

「らめえ……お買い物便利しゅぎるのお……」

「くっ……殺せ! お求めやすい価格の上、サービスまで充実しているとは……!」


 いつでもお求めいただける安価な食料品、日用品、暖かなお食事……そのうえ各種サービスの手続きができるショップ、お子様連れでもお楽しみいただけるアミューズメント施設まで取り揃えております……!

 原始的な狩猟採集に頼っていたエルフたちに、文明の極みたるイ〇ンに抗うすべなどなかった。


 それから、幾ばくかの時が流れ――終わりは、突然に訪れた。


「我が名はイ〇ン。全ての商店街を消し去り、そして私も消えよう! 永遠に!!」


 撤退である。

 そもそも住人もまばらの田舎エルフ村に出店して採算取れるわけねーだろ。


 文明の味を覚えたエルフたちは、もはやかつての生活に戻れるはずもなく、イ〇ンがある都市部へと移り住んでいった。


 こうしてまた、ひとつの平和なエルフの村が、イ〇ンによって滅ぼされたのであった。

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平和なエルフの村にイ〇ンが攻めてくるなんて…… アワユキ @houryuki

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