レンタル28・ドラゴンがやってくる!

──札幌市郊外・島牧演習場

 札幌から国道三十六号線を広島方面に走る。

 そして恵庭の少し手前に、陸上自衛隊島牧演習場はあった。

 あらかじめスケジュールは組まれているため、ルーラーたちが演習場に到着したとき、現場には自衛官だけでなく報道関係者も集まっていた。

 ちなみにルーラーは魔法の絨毯に乗って移動、その背後には野次馬のように朽木と飯田、西田と柳川という、喫茶コーナーの常連の姿も見えている。

 先導している関川ひばりもルーラーから授かった魔法の絨毯に乗って移動。

彼女の絨毯に女性陣が乗っている。



「ご苦労様です!!」


 演習場正面ゲートでは、今回の件を快く引き受けてくれた防衛省の幹部が待っていた。

 

「内閣府魔導省所属の関川ひばりです。大賢者ルーラーと、その友人たちをお連れしました」

「お話は伺っています。こちらへどうぞ!!」


──ギィィィィィィッ

 両開きの柵がゆっくりと開き、自衛官がルーラーたちを先導する。


「な、なあルーラーさん。俺たち場違いじゃないのか?」

「今更だけど……着いてきてよかったのか?」

「フォッフォッフォッ、何を今更。ここまで来たんだから、覚悟を決めるがよい!!」


 笑いながら絨毯を操るルーラー。

 その前を飛ぶひばりの絨毯では、少しだけ緊張している柳川と西田の姿が見える。


「祭さん!! あれはなんですの?」

「せ、戦車?」

「それぐらいはまたわかりますわ!! 名前はなんでいうのかとお聞きしたのです!!」

「あれは高機動車です。戦車ではありませんね」


 西田に問われても、祭はミリタリー系知識を持ち合わせていない。

 そのため、武器がついている車両は全て戦車である。

 それをひばりが一つずつ説明していくと、2人とも目を輝かせて眺めていた。


 やがて仮設テントの真横に到着すると、全員が絨毯から降りてテントに向かう。


「ルーラーさん、ご無沙汰しています。防衛省の長谷川です。この度は異世界の魔物を召喚すると聞きまして、この場をご用意しました」

「ありがとうございます。本来ならば、召喚することはないと考えていたので、こちらの提案を汲んでいただきありがとうございます」


 挨拶のちの握手。

 そして全員がテーブルセットの用意されたテントの中に入ると、演習場を眺めている。


「広いなぁ……朽木さん、ここで自衛隊は訓練をしているんだな」

「そりゃそうだ。富士演習場も広かったぞ、毎年、総火演は見に行っていたからな」


 朽木が胸を張って告げている中、ルーラーは腰を上げて演習場の中にある広場へと歩いていく。

 ルーラーが魔物を召喚する瞬間を記録するための撮影班が、最後の調整を終えた。

 そしてルーラーに準備完了の連絡を行ったのである。


「ここで構わぬのか?」

「はい。最後にもう一度確認しますが、危険性はないのですよね?」

「テイムしてあるから大丈夫じゃよ。では、始めるから下がってくれるか?」

「はい!!」


 ルーラーの言葉で自衛官たちが一斉に下がっていく。

 そしてルーラーは周囲の安全を確保すると、アイテムBOXから魔導の杖を取り出して構える。


「フォーダース・フェロー・リード……黄金に輝く円環の理よ、我が名ルーラー・ヴァンキッシュにおいて、古き門を開き給え……ローズ・タヴ・スラッシュ……九十六のマナと共に、我が元に扉を開かん……」


──ブゥン

 ルーラーを中心に、幾つもの魔法陣が展開する。

 それはドーム状に広がると、直径200mの立体大魔法陣を生み出す。


──グォングォン

 やがてその中心部、ルーラーの目の前に扉が現れる。


「杖よ、鍵となりて扉を開かん!!」


──グルン

 杖を回転させてから、扉に突き刺す。

 それは鍵となり、封印をゆっくりと開いた。


──カチャァァァァァン

 小気味良い金属音が響くと同時に、魔法陣が全て砕け散った。


「ふう……これでよし」


 ルーラーは額から流れる汗をローブの袖で拭い、満足そうに空を眺める。


『我が主人よ……盟約と義務に基づき……って、ルーラーさん、ここ何処? え? 本当に何処ですか?』


 重低音の声が空から響く。

 慌てて空を見上げた自衛官や報道関係者、そしてひばりや朽木たちは絶句した。


「ど、ドラゴンだぁァァァァァ」


 厳しい訓練をおこなってきた自衛官ですら、思わず悲鳴をあげてしまう。

 彼らの頭上、上空100mほどの場所には、漆黒の鎧のような鱗を身に纏ったドラゴンが飛んでいたのである。

 全長にして80mほど。

 翼を広げた翼長ならば、ゆうに200mはあろう。

 そのドラゴンが空中でホバリングしながら、ルーラーに話しかけているのである。


「久しいな、暗黒竜グランガオンよ。カルファードの住み心地はどうじゃ?」

『天国だけど……ここ、本当に何処? 魔力が感じられないのですけど? それよりも飛行状態を維持できないので、降りて良い?』

「構わぬぞ」


──ブワサッ

 軽くひと羽ばたきしてから、グランガオンが大地に着地する。

 そして頭をゆっくりと下げると、ルーラーの目の前で頭を地面につけた。


「本当に、元気そうじゃな」

『ルーラーさんも元気……生きていてよかった』

「そもそも、カルファードはわしが作った異空間大陸じゃよ。わしが死んだなら、その世界は消滅しておるわ」


──ハッ!!

 そうだった!! というような顔でルーラーを見るグランガオン。

 そしてようやく周囲の状況を理解した。


『周りの人から敵意を感じない。お披露目? それよりもここは何処?』

「地球という世界じゃ。わしは、あの世界を追い出されてしまったからな……」

『そうだったのか。でも、こっちの世界で元気に生きてあるんだよね?』

「まあ、な。ということなので、自己紹介するが良いぞ」


 パンパンとグランガオンの頬を叩く。

 それがルーラーの信頼の証。

 

『……我が名は暗黒竜グランガオン。八大竜王の頂点であり、人の生と死を司る竜である!!』


 威厳たっぷりに叫ぶグランガオン。

 その身体から発する【竜気】により、ルーラーを除くその場の全員が硬直した。


「こりゃ。もう少し優しく挨拶せんか!!」

『あ、グランガオンといいます。ルーラーさんのタイムドラゴンです。今後とも、よろしくお願いします』


 いきなり腰が低くなるグランガオンに、ようやく全員の緊張も解ける。


『それで、俺にどんな御用です?』

「うむ、実はな……」


 ルーラーはこの世界に来た理由から始まり、今現在の事情に至るまで一通り説明する。

 それを腕を組んで頷きつつ聞いているグランガオンに、自衛官や報道関係者はようやく警戒心が解きほぐされていく。


『つまり、錬金術に必要な素材があればいいんだよね?』

「うむ。カルファードから持ってきてくれるだけで良い。実を言うと、こっちの世界でカルファードの門が開く保証もなくてな……ずっと試さなかったのじゃよ」


 カルファードの門を開くことはすなわち、ルーラーと契約したモンスターの世界を地球と繋げるということ。

 万が一のことがあっては大変なため、ルーラー門を開くことを躊躇っていた。


『それじゃあ、必要なものを魔石に刻んでくれたら、それを取ってくるよ。俺は、こっちの世界の理でも問題なく実体化できるようだからさ』

「それはこれじゃな……頼むぞ」


 必要な素材のデータを刻み込んだ魔石。

 それをグランガオンに手渡すと、グランガオンはゆっくりと輝き、そしてスッと消えていった。


「……ルーラーさん、さっきのドラゴンは、我々に敵対することは無いのですよね?」

「あるはずなかろう。それよりも、これでわしの用事は終わったぞ。錬金術素材については、わしの中庭のようなところから持ってきてもらう事になったからな」

「それじゃあ、また魔道具の生産が再開されるのですね?」


 報告を聞いた防衛省幹部は、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「それはまだ早急じゃよ。どれだけの素材が生み出されているか、それはわしにもわからんからな……では、これで用事は済んだかな?」


 そう問いかけると、防衛省幹部がチラチラとルーラーの後ろを見ている。

 そこには、たまたま落ちたグランガオンの鱗が数枚、太陽の光をキラキラと反射している。


「一枚はこっちで貰うが。残りは研究機関に持っていくが良いぞ」

「ありがとうございます!!」


 すぐさま連絡を受けた自衛官たちが回収に向かう。

 そしてルーラーは、テントの中で呆然としているひばりたちの元に戻ってくる。


「さて。明日から忙しくなるぞ」

「は、はい!!」

「本当にドラゴンが現れるとは……なあ飯田、俺たちは夢を見ているんじゃ無いか?」

「いや、夢じゃ無いようだ」

「ルーラーさん!! あのドラゴンの背中に乗れますの?」

「西田さん、それは危ないですよ!!」


 などなど。

 ようやく落ち着いた全員からの質問攻めに逢いつつも、るあは笑っている。

 久しぶりに出会った友人。

 その元気そうな姿を見て、ほっと胸を撫で下ろしていた。

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