レンタル27・素材を手に入れよう

──オールレント裏・世界樹の下

 昼休み。

 今日のルーラーは、世界樹の精霊であるワーズと二人、のんびりとランチを取っている。

 ワーズは精霊故に、食べ物を摂取する必要はない。

 世界樹とひとつ故に、太陽の恵みさえあれば十分。

 太陽光を受けた世界樹はその中で大量の魔力を生成し、大地の底を走るマナラインに供給したり、枝葉から魔力を蒸散して待機中に魔力を溶け込ませている。


 その効果なのかわからないが、ルーラーの家を中心とした一定の距離に住んでいる人々は、ここ一年以上は重い病気に罹っていない。

 常連の朽木や飯田が元気に市民マラソンに参加し、完走できるほどの体力の活性化も確認できている。


「あのダンジョンコアの消滅から、新たにマナラインにちょっかいをかけてくる存在はありませんね」

「それは重畳。この世界の兵器は、どうやら魔族にとっては脅威そのもののようじゃからな。もう手出しはしてこないじゃろうなぁ」


 魔族の侵攻。

 そのための尖兵でもあるダンジョンコアが、いとも簡単に破壊されたのである。

 ダンジョンコアを知るルーラーに取っても、この事実は驚愕に値する。

 それ故に、魔族はこの世界への侵攻を諦めるじゃろうというのが、ルーラーの意見である。

 

「そうですね。もしもまた発生しましたら、その時はすぐにご連絡しますので」

「そうしてくれると助かるな……しかし、魔導具を作る素材が足りないのは、どうしたものが……」


 髭を撫でつつ、考える。

 鉱石系素材は、この地球上では入手不可能なものもある。

 魔物の素材に至っては、完全に入手不可。

 唯一、世界樹からの恵みと精霊からの加護のみが、今でも入手可能である。


「私の素材では、魔導具は作れませんが?」

「ポーション系ならば、まだなんとかなる。向こうの世界の薬草と似た効能のものは普通に売っていたから、今はそれで作っているしなあ……」

「バゥッ!!」


 頭を悩ませているルーラーのもとに、フェンリルがやって来る。

 その背後からは、ひばりと朽木、飯田の3人もついてきていた。


「ん? ひばりはともかく、朽木さんと飯田さんはなんのようじゃ?」

「お昼をご一緒しようと思ってな。うちの婆さんの手作りおはぎだ。たまには差し入れでも持って行きなさいって言われてな」

「うちは娘が作ってくれたサンドイッチだな。ルーラーさんはコーヒーを入れてくれるか?」

「まあ、せっかくじゃからご相伴に預かるとするか。確か冷蔵庫に水出しコーヒーがあったはずじゃから、持ってくるとするか」

「では、私が持ってきます」


 シュタタタと、ひばりがコーヒーを取りに向かう。

 その間にテーブルの上に料理を並べると、ちょうどひばりも戻ってきたのでランチタイムは再開。

 

「しっかし。ルーラーさんの作っていた魔導具も、段々と減ってきたなぁ」

「新しいものを補充しないのですか?」

「そもそも素材がないんじゃよ。ドラゴンの皮とか爪とか。この世界には存在しないじゃろうが」


 飯田の言葉にそう返すと。


「そうだよなぁ……でも、ルーラーさんなら、ドラゴンとか素材になりそうな魔物を召喚できたりしないのか?」

「……いや、可能と言えば可能なんじゃが……」


 ボソボソと力無く呟く。

 これには何かあると、朽木も食いつく。


「それなら召喚したらいいんじゃないか? 魔力が足りないとか、そういうのでなければ」

「それはない。わしの契約した魔物たちは、アイテムBOXとは別の亜空間にて飼育してあるから……でもなぁ」


 ルーラーは腕を組んで考えこむ。

 使役魔獣の召喚に関する規約は、実は存在しない。

 というのも、こっちの世界では魔獣たちを召喚できるかどうか不安であったから。

 万が一にも失敗した場合、制御が出来なくなった魔獣たちが暴れ出す可能性もある。

 そのような危険な行為を、実験という言葉で召喚して良いものか考えてしまったから。

 結果として、ルーラーは魔獣召喚は行わないと考え、そのことを忘れることにしたのである。


「日本政府でも、ルーラーさんの魔獣については報告を受けていません。ですので、この件については一度、魔導省に問い合わせるのがよろしいかと思います。それに……私も少しだけ興味があります」

「興味……か。まあ、そうじゃろうなぁ……しかし、どうしたものか」


 まだ召喚を決めかねているルーラー。

 その数時間後には、魔導省に相談した方がいいということで、ひばりが代わりに報告に向かってくれる。

 そして翌日。

 政府の監査役員が立会の元で、ルーラーの魔獣召喚および魔獣の登録を行うという報告が届いた。

 

「半月後の日曜日か。場所は札幌市郊外、自衛隊の島牧演習場にて行う……か。何事もなければ良いのじゃが」

「師匠なら大丈夫です!!」


 根拠のない自信のひばりと、一抹の不安を覚えるルーラー。

 そして運命の日曜日が、間も無くやってくる。

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