レンタル26・物理最強を目の当たりにして

──新宿ダンジョン

 後日、新宿立坑とも、新宿迷宮とも揶揄されルー場所の最下層に、ルーラーは自衛隊の特殊部隊と共に立っていた。

 最下層は直径30mほどに窄み、その中央に石造りの台座がある。

 その台座の上、高さにして5mほどの場所に、紫色の巨大な水晶柱が浮かんでいた。

 ルーラーにとってはよく見慣れた、そして自衛隊にとっては初めて目の当たりにする光景。

 

「……最悪じゃな……まだまだ竪穴が続くか、横穴があって横に伸びるかと思ったのじゃが」


 頭を抱えつつ、ルーラーは水晶柱を眺める。


「ルーラーさん、これは一体なんですか?」

「これがダンジョンコアじゃよ。活性化しておるが、今はまだ、地脈を侵食して力を得ているだけにすぎない。じゃが、放置しておくと力を蓄え、魔族が生まれてくる……」


──ドシュッ

 右掌を水晶柱に向けて、ルーラーはマジックアローを飛ばす。

 彼の持つ魔力なら、無詠唱無強化状態でもマグナム並みの威力を発揮するのだが。

 それが水晶柱の表面で綺麗に弾け飛んでしまう。


「やはりなぁ。予想通り、魔力を全く受け付けないか」

「あれを破壊したらよろしいので?」

「うーむ、そうなのじゃが……隊長さん、自衛隊の装備で破壊できると思うか?」

「それは、試してみなくてはなりません。部下の話では、あれがダンジョンコアということは、守護者が存在するのではと進言してきましたが。そのようなものが存在するのですか?」


 そう問われて、ルーラーは再度、ダンジョンコアを観察する。


「まあ、普通ならば存在するが……ここに至るまでに現れた魔物たち、あれがある意味ではガーディアンじゃったようだな。残存魔力は少なく、防御膜に包まれて休眠しておる……破壊するなら、今じゃな」


──ザッ

 ルーラーの言葉で隊長も決断。

 今の状態で上に報告を行った場合、なんだかんだと理由をつけて調査を開始するに決まっている。

 それならば、現場判断で破壊してしまったほうがいい。

 国益などを優先するよりも、国民の安全のために。


「構え!!」


──ザッ!!

 その場の隊員全てが、銃器を、車載火器を構える。

 水晶柱に照準を合わせ、隊長の言葉を待つ。


「撃てぇ!!」


──Broooooom!!

 全火器による一斉掃射!

 ルーラーの魔法すら弾き返す防護膜がいとも簡単に砕けちり、ダンジョンコアが削られていく。

 銃弾を受けるたびに欠け、砕け、亀裂が走る。

 そして斉射を開始してから一分後。


──バッギィィィン!!

 ダンジョンコアが砕け散った。

 紫色の水晶のかけらが空中から降り注ぎ、地面に溶けていく。

 その光景を見て、ルーラーも思わず呆然とするしかなかった。


「……はぁ。わし、自信を無くしそうじゃよ。我々の世界では、生まれたばかりのダンジョンコアであっても、ここまで簡単に破壊することはできなかったぞ」


 無属性最強とは言わないが、この地球上の兵器の強さに、それが魔族に対して非常に有効であることに、ルーラーは驚きを隠せない。


「まあ、武器の相性というのがあるのかもしれません。では、この場所の調査を開始します」

「いや、早く逃げたほうが良い。ダンジョンコアを失った迷宮は、やがて崩れてしまうからな」


 そうルーラーが告げた時。


──パラパラパラッ

 頭上から小石が落ちてくる。


「た、退避だ!! 全車、地上に向けて走れぇぇぇ」


 素早く車両に飛び乗り、次々と降りてきたスロープを上がっていく。

 幸いなことに崩れるのはもう少し先らしく、四時間後には全車両が地上に逃げ延びることができた。



 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯



 地上に戻ってから。

 ルーラーは特殊部隊の隊長と共に、ダンジョンか、少し離れた場所に設置されているベースキャンプに向かう。

 そこで一連の報告を行ったのち、十日間を東京で過ごす。

 ダンジョンが崩壊し、竪穴の周辺にも大きな被害がでた。

 それらの修復作業の手伝いと、新たなるダンジョンの発生に対応できるように。


「はぁ、早く札幌に帰りたいわ。ダンジョン周辺の復興作業など、建設屋に任せれば良いものを……」

「基本的にはそうですか。万が一の時、怪我人の治療などはルーラーさんにお願いしたいのですが」

「人命第一。それは構わんよ……」


 やれやれと諦め顔で、ルーラーは作業を手伝う。

 そして全てが終わり、札幌に戻れたのは実に半月後であった。


………

……


──魔導レンタルショップ・オールレント

 休業日の看板をひっくり返し、ルーラーが店を開ける。

 ルーラーが東京に行っていた間は、ひばりが責任者として店内を取り仕切っていた。

 幸いなことに新しい追加注文もなく、ひばりが調合できるような回復系ポーションが多めに売れていた程度。

 それ故に、先日は店を休みにして、足りないポーションを追加で生産していた。


「よう、ルーラーさん。俺はいつものやつで」

「朽木のいつものやつは、ちょくちょく変わるからのう。今日のいつものやつはなんじゃ?」

「小倉トーストセットで。ひばりちゃんがよく作ってくれたから、彼女に聞いたらわかると思うが」

「その無茶な注文のおかげで、私は毎日、小豆を炊いていたのですよ!!」


 しっかりと餡子は手作り。

 こだわる男・朽木の注文にルーラーも笑うしかなかった。


「はっはっはっ。相変わらずじゃな。どれ、今日はわしが作ってやろうか」

「それじゃあルーラーさん、俺のも頼んでいいか? 朽木と同じやつを」

「構わんよ。一つ作るのも二つ作るのも同じじゃからな」


 そう告げてから、ルーラーはゆっくりとパンを焼く。

 何の変哲もない、少し硬いパン。

 バゲットとも違う甘さのある、中身がフワッフワのパン。


「うまい!!!! なんじゃこれは!」

「おおう、中はモチモチしていて外はカリッと。それでいて堅すぎず、ジャムにもバターにも合う!」

「師匠、これはなんですか!! 私も初めて食べました!」


 三人が感動しているので、ルーラーはちょっとだけ種明かし。


「まあ、向こうの世界の果実の汁を、少しだけ混ぜたのじゃよ。本当はダメなのじゃが、今日は特別にな」

「あ……食べちゃった……」

「ということなので、ひばりも共犯じゃよ。さて、そろそろ客が来る時間じゃな」


──カランカラーンカラーン

 入口の鐘が響く。

 そして予約客がカウンターまでやってくると、ひばりが急いでカウンターに向かった。

 そんな日常を、ルーラーはのんびりと眺めていた。

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