レンタル21・師匠と弟子と、その弟子と

 魔導レンタルショップ・オールレント。


 大賢者ルーラーの店であるここには、彼が作り出したさまざまな魔導具や魔法のポーションが販売、レンタルされている。


 魔法という概念の存在しない現代世界において、彼の存在は脅威そのもの。

 偶然ではあるものの、それを手に入れることができた日本は、世界に先駆けて魔法を文明に取り入れることができ……なかった。


………

……


 オールレント・喫茶コーナー。

 昼休みの時間は常連の溜まり場となっている喫茶コーナーの一角には、高校生の西田と柳川、そして店員の関川ひばりが座っている。

 テーブルの上には、ソフトボール大の紫色の水晶球が一つ、銀で作られた竜の彫像の上に安置されている。


「これが、魔力鑑定を行う魔導具ですか?」

「ふ、ふ〜ん。この私の魔力を測るための魔導具ってことなのね?」


「いえ、誰でも手数料を支払って貰えば、魔力測定はできますので。ちゃんと測定結果を記したプレートも発行されますこらね。それで、どちらから調べますか?」


 部活が休みの日。

 放課後になると西田はオールレントに遊びにきている。

 先輩争奪戦をしていたライバルの柳川祭をつれて来ては、今度の部活で使えるものはないか、大会までに必要なものはないかと二人で物色している。

 そして気になったのが、喫茶カウンター奥に貼り付けてある『日本政府公認・魔力測定します』と記された小さな貼り紙。

 そこで二人は、これからオールレントの商品を購入することがあるからと、少しでも魔法について勉強したいという好奇心から、魔力測定を行うことにした。


「それじゃあ、まずは西田さんからね。ここに手をかざして……」

「こ、こうかしら?」


 ドキドキしながら、そっと右掌を水晶球の上にかざす。

 すると、水晶球がほんのりと輝き、その中から赤く輝く一枚のプレートを生み出した。


「これは?」

「それが測定結果ですね。西田さんの魔力波長も登録されていますので、そのまま身分証明書としても使えます」


 その説明ののち、表面に西田の顔写真も浮かび上がる。

 名前と生年月日、魔力波長などが表面に記されてあるのと、政府発行の通しナンバーもしっかりと刻み込まれている。


「魔力値30……高いのか低いのかわからないわ。これってどうなの?」

「カードの色はその方の適正属性を表しています。赤なので火属性、魔力値30は日本人平均てまは高い方になります」


 一般的な日本人の魔力値は、10から30。

 そう考えると西田は高い方である。

 ちなみに魔法使いとしての適正値は50からなので、鍛えれば到達できなくもない。


「関川さんのカードは?」

「私はこれね。緑のカードで魔力値は51。魔法使い適正はクリアしてます」

「ぐぬぬ……負けないわ……って、それよりも祭、貴方はどうなのよ?」

「え、私も?」

「そうよ、とっとと手を出さなさーい!!」


 祭の腕を掴んで水晶球の上に持っていく。

 すると祭も諦めたかのように掌をかざして。


──シュンッ

 銀色のカードが排出される。


「ほら、魔力値を見せて頂戴!!」

「ええっと……32」

「なんで? また私は祭りに負けたの?」


 落胆するように叫ぶ西田だが。

 ひばりがすぐにフォローする。


「残念だけど、祭さんには魔力適正がないのね。銀色のカードは魔力適正ではなく、闘気適正があることを示しているのよ」

「へぇ。残念ね祭さん……」

「でも、闘気ってなんですか?」

「簡単にいうと、生命のエネルギー。ルーラー師匠の世界では、武術家が体内から生み出す力って発明してくれたわ。オーラって言えばわかるかしら?」


 その説明を聞いて、祭がパーっと笑みを浮かべる。


「なんで嬉しそうなの?」

「だって、空手家にとって最高の属性じゃない!!」

「そう? 私は魔法使いになりたいわ……ねぇルーラーさん、私を弟子にしてくれるかしら?」


 怖いもの知らずとは、これ如何に。

 西田はルーラーに師事するために、カウンターで朽木たちと談笑しているルーラーに話しかけたが。


「弟子か。ワシの門下生が一人でも卒業せんと、枠がなくてな」

「弟子の枠なんてあるの?」

「うむ。大賢者から直接教えを得られるのは、選ばれた十名のみでな。いまは枠がないので、弟子見習いということになるが……そうなると、ひばりに師事しなくてはならんぞ?」

「それでもいいわ。ひばりさん、よろしくお願いします!!」


 ガシッとひばりの手を握る西田。

 突然ながらひばりは困惑してルーラーに助けを求めるように見る。


「あ、あの、師匠!! 私の弟子って!」

「ん? まあ、まだ一年半程度じゃが、人に教えるのもまた修行。勉強だと思って頑張りなさい」

「だってさ、頑張れひばりちゃん!!」

「ここの爺さんたちは、応援しているぞ!!!!」


 嬉しそうに笑っている朽木と飯田。

 まるで他人事のように話してある二人を見て、ひばりはため息をつく。


「はぁ……わかりました、がんばります」

「やった!! これで私も日本初の魔法使いに!!」

「それは無理ね。私がもう登録されていますから。国内二番目で……」

「いや、三番目じゃな」


 ルーラーが笑う。

 そして飯田が青く光るプレートを取り出してみせた。


「飯田さんは、魔術修行こそしていないが、規定値には達しているので。先日、日本政府に『条件指定魔法使い』登録をしておいたんじゃよ」

「そういうこと。宜しく頼むよ」


 この話の流れで、祭ははっと気がつき、朽木を見るが。


「ん? ワシは適性ないぞ、ここでのんびりとコーヒーを飲んでいる爺さんだからな」

「そうそう。適性があっても修行していないワシと変わらん」

「はぁ、そうですよね」


 がっかりした祭。


「さて、それじゃあこれを作らないとならないわね」


 ひばりがポケットから小さなメダルを取り出す。

 これはルーラーの直弟子である証であり、弟子を取った魔法使いは、自分の魔力と弟子の魔力を混ぜた魔法金属製のメダル『マギ・コイン』を手渡すことになっている。


「それはなんですか?」

「まあ、弟子の証明。私にとって最初の弟子になるんだから、頑張って成功しないとね」


 マギ・コインの生成は難しく、それをきれいに作り出すことも師匠としての資質を表している。

 うまく混ざり合わせることができれば、品質も色合いも最高のものになるが、失敗するとマーブル状のコインになる。

 ちなみにひばりが持っているものは、薄らと青く輝く透き通った金属。

 大賢者にしか生み出せない伝承金属らしい。


「それじゃあ……」


 ゆっくりと西田の魔力を掌で集め、そこに自分の魔力を編み込む。

 そして定着させてから、変質処理を行って……。


──キン

 赤く輝くメダルが出来上がる。

 色合い的にはマーブル状の部分もあり、ひばりがまだ未熟であることを表しているのだが。

 微妙に炎を形取っている紋様に、西田は満足そうであった。


「ふう。師匠……私はまだまだのようでした」

「道は険しく長く遠い。頑張るのじゃな」 

「いいなぁ……私も、闘気の師匠が欲しいですよ」


 ルーラーとひばりの話を聞きつつ、祭がボソッと呟いていた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る