レンタル20・旅は道連れ
──翌朝、九時
ひばりがいない為、本日は休業。
もっとも、もともと日曜日は休みであり、あらかじめ予約してない限りはオールレントが開くことはない。
「さて、それじゃあ行こうか!!」
「全く……少しはルーラーさんの都合を考えたほうがいいぞ」
オールレントの前で、旅行カバンを持った朽木と飯田が待ち構えている。
その光景を見て、外出用ローブに身を包んだルーラーは頭を抱えそうになる。
肩から下げるバッグ一つで間に合うものを、朽木はわざわさ大きな鞄を用意してきたのである。
「まあ、わしは暇じゃから構わんが。なんで日帰りでそんなでかい鞄を持ってきたのじゃ?」
「お土産用に決まっているだろうが。しかし、ルーラーさんは鞄一つ、飯田も小さめの旅行カバンとは。旅の名物はお土産だろうが?」
「そんなもん知らんわ。わしはアイテムBOXがあるから、必要なものは全てそっちに収めてあるわ」
「飯田は?」
笑いながら呟くルーラーの返事を聞いてから、飯田に話を振るのだが。
「そんなにお土産を買ってくるはずがないだろうが。そもそも、どこに向かうつもりだったんだ?」
「そうさなぁ……まずは」
朽木がガサゴソと地図を開く。
そしてマークしてある場所を指差して一言。
「まずはアメリカだな。ニューヨークにあるこの店で、欲しいものがある」
「……はぁ。飯田、転移門で行ける場所はルーラーさんが知っている場所だと、昨日話していたじゃないか?」
「ああ、知っているさ」
「朽木さんや、わし、アメリカに行ったことはないぞ?」
流石にルーラーも飯田も呆れかえっている。
「そう、そこが問題なんだけど……実は、裏技があってだな」
そう言いながら、朽木が懐からメモを取り出す。
「なあ、ルーラーさん。遠くのものを見る魔法ってあるか?」
「千里眼か。あるにはあるが?」
「それじゃあ。それを発動してアメリカのニューヨークを見てくれるか? 魔法だが自分の目で見たようなものだから、そこに転移門を作り出すことぐらいは可能だろ?」
実は、ラノベ好きの孫から教えてもらった魔法の裏技を、朽木はメモしてきたのである。
日頃から、ルーラーの弟子になりたい孫が、朽木に助言をしていたのであるが。
「……はぁ。それは無理じゃな。空間には絶対座標軸というものが存在していてな。それを測るためには、実地でなくてはならんのじゃよ。発想はあっておるが、この地ではマナを遠くに飛ばすだけの魔素が存在しない」
「そっか。じゃあその2とその3も不可能か……」
その2はタブレットで映し出した場所に転移門を繋げる方法、その3はルーラーが高速で移動して現地から転移で戻ってくる方法。
どちらも説明したのだが、ルーラーは頭を左右に振るだけ。
「それじゃあ、どうやってアメリカに行ったら良いんだ?」
「はぁ……どうしても、アメリカに行きたいのか?」
「そりゃそうだ。こう見えても生まれてから今日まで、日本から出たことなどないからな」
胸を張って自信満々に告げる朽木。
これにはルーラーも飯田も呆れかえってしまう。
「まあ。今日は国内旅行で我慢せい!! ではいくぞ」
ルーラーのうちの裏庭に移動。
世界樹の近くで転移門を開くと、ルーラーはワーズに留守番を任せて転移門に入っていく。
「お、おい、ルーラーさん。いきなりどこにいくんだ?」
「いいからいいから。早くぐっも入ってくれって!!」
少しだけ抵抗する朽木を、飯田が押し込める。
そして最後に飯田が入っていくと、ワーズは転移門に向かって手を振っていた。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
ルーラーが出かけてから一時間後。
オールレントの前に、高校生たちがやってきた。
三人組の男子校生、学校は休みなので全員ラフな私服なのだけど、一人だけ異様な服装である。
「あれ、今日は休みか」
「なんだ、ここならお前の悩みを聞いてくれると思ったんだけど」
「……悩み。まあ、そりゃあ、この記憶喪失部分が戻ったら、助かるんだけどさ」
高校生たちの悩み。
それは、友人に起こった『突発性健忘症』の治療。
普通に授業を受けていたのに、友人の記憶がごっそりと欠如してしまったらしい。
クラスメイトや友達のことなどはしっかりと覚えているのに、なにかの記憶だけがなくなっている。
それが気のせいなのか、それとも本当に何かを忘れているのか。
病院に通ってみても、普段の生活については全て覚えているので、何も問題はない。
だが、彼の中では、明らかに大切な部分が失われてしまっている。
「まあ、また今度来てみるか。
「そうだな。休みなら仕方ないか。それで、この店ってなんなんだ? 魔導レンタルショップって書いてあるけど」
「はぁ? そこから説明するのかよ。ここは、異世界からやってきた大賢者が開いた魔導具のレンタルショップだよ」
その説明を受けて、ふと、光瑠は呟く。
「大賢者……ルーラー?」
「そうそう、その人。なんだ、光瑠も知っているんじゃないかよ」
「え、あれ、俺、今なんて言った?」
「大賢者ルーラー。ここの店主で、異世界から来た魔法使いだよ」
「あ、俺、名前呼んでた? え? でもなんで知っている?」
「そりゃあ、去年ぐらいには連日のようにニュースに出ていたからな。まあ、そろそろ行こうぜ」
そう話しながら、光瑠と呼ばれた高校生は、仲間たちと共に離れていった。
◯ ◯ ◯ ◯ ◯
朝九時半から出かけたルーラー御一行。
九州の温泉地でのんびりと日帰り温泉を堪能したのち、飯田の希望地である大阪で買い物三昧。
さらに朽木の希望で東京のアメ横でお土産を大量に購入したのち、夕方五時には札幌に戻ってくる。
「……はっはっは。まさか一日で三カ所も移動するとは思っていなかったぞ。これはあれだ、かつて帝国に侵攻してきた魔王軍に対抗するため、敵拠点の同時制圧を行った時以来じゃな」
「いや、ルーラーさん、わかりづらい」
「魔王軍とか、物騒すぎるんだけど」
「そうか? まあ、こっちの世界じゃ、魔族もいないからなぁ」
笑いながら三人が転移門から出てくると、ワーズが頭を下げていた。
「おかえりなさい」
「うむ。留守中に変わったことは?」
「特にありませんが……学生らしい少年たちが、店の前まで来ていたようですが。休業日なので帰っていったぐらいです。あと、隣町の安田さんが、早く魔法の絨毯を売って欲しいと嘆願しに来てました」
「また安田さんか。本当に困ったものじゃな」
そう告げながら、ルーラーは世界樹の近くにあるガーデンチェアに腰を下ろす。
そしてテーブルの上にコーヒーセットを用意すると、夕方のティータイムを楽しむことにした。
なお、お茶請けは九州名産の温泉饅頭と大阪のたこ焼きであったことへ、言うまでもなく。
ワーズも初めて食べる温泉饅頭と本場のたこ焼きに、嬉しそうに舌鼓を打っていた。
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