10.不良少年、異国少女のボスになる?
「お前は本っ当にムカつくことしかしねーな!!」
試合を終えた後。試合場の床の上、イノは猫少年の前に体育座りで座らされ、猫少年の話を一方的に聞かされていた。本当は
「外国から来てチヤホヤされてつけあがってるんだろーが、俺はそんな甘くねえぞ、この国のルールってもんを叩き込んでやる」
「はい」
「今後は相手をナメ腐った発言も戦い方もするんじゃねえぞ! またやらかしたら、またああしてはっ倒すからな!!」
「はい」
「返事だけはいいな、ったく……」
定石を守った戦い方を重視する点もそうだし、この説教もなんだかんだイノの無作法ぶりを叱りたしなめる真っ当な内容だ。この少年は、昨日の無謀、無法、粗暴で性急な印象とは裏腹に根は秩序を重んじる律儀で真面目な気質なのかもしれない。
「いいか、オレのことは今日から敬うべき目上と思って呼ぶんだ、兄貴とかな」
「お兄ちゃん?」
「意味はあってるけどよー……もっとこう、リーダーとか、先生、師匠みたいな……いやそういうのだとなんか大げさで違うな……番長、総長? なんか古くせえなぁ」
「目上……ボス?」
「あーいいな。それでいく」
ボス猫さん。やっぱり猫っぽいな……とイノは内心考えていたが、また怒りを買いそうなのでそこはおくびにも出さずに黙っていた。
「いいか、これからはボスに無礼は働くなよ。さっきみたいな戦い方も、ナメた物言いも無しだ」
「はい、ボス」
「オレに言いたいことはみんな共通語で話せ。それ以外は悪口とみなして教育的指導だからな」
少年はぶん、と大仰に拳を振り上げる動作をする。
「はい、ボス」
「それから、ボスの命令は絶対だ。俺の指示には絶対に従え」
「はい、ボス」
「……さっきからホイホイ返事してるけどよ、ちゃんと言葉の意味分かってるんだろうな?」
「はい、多分」
「……」
ふと、少年改めボスはしばし考え込んだ後、しゃがみ込んでイノの顔を覗き込んだ。
「おい」
その声は先ほどまでとうって変わって小さく神妙な様子だ。
「外に聞こえないように声を抑えて答えろよ。おめー、オレがここの外に出れるように、手伝えるか? 職員連中に捕まらないように、だ」
「はいボス。外なら簡単に出れると思います」
少女は言われた通り小声で、それでも確信の通った声音で即答していた。
「マジかよ。準備の時間は? 何か道具は要るのか」
「出ようと思えば、すぐ? 特別な許可をもらってる、ので」
「……本当に今すぐ脱走したら怪しまれるよな……」
「この後、検査があって、それから昼食の後はずっと自由時間で……その時に、一緒に行く?」
「じゃあメシの後、午後になったら合流して決行といくか。……ここの食堂は分かるか?」
「うん。私も、そこで昼食を食べるから」
「うっし、じゃあメシを食ったらすぐ行けるじゃねーか。そっから大脱走だ」
少女が頷くと、ボスはニッと上機嫌に笑って彼女の頭をわしゃわしゃと撫でた。
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