第1話 エスコートなんですけど!
キャスト(キャバ嬢)は曜日に合わせて出勤管理をされているが、当日欠勤になるキャストが出ることも当然ある。
その為、お客様よりもキャストの方が人数が少なくなることがあるのだが…。
「まずいまずい!団体が一気に入ってきてキャストが足りない!悪いけどキャスト側に入って!」
なんてことがある。
要は私はエスコートとして働いてはいるものの、状況に応じてはキャストとなることもあるのである。
しかし私にはこれが許せなかったりする。
それも、キャストの時給は女の子次第で変わってくる(人気嬢の場合はかなり高くなる)のだが、基本的に1,800円以上はある場合が多い。しかし私はエスコートとして働いており、そんな私の時給は1,200円ぽっちだったのである。
つまり、時給1,200円で働いているにも関わらず、1,800円以上もの技術(?)を要求されていることになる。
もちろんこれについては店長に抗議したことがある。
「時給1,200円の私に、1,800円以上のキャストの仕事をさせるんですか?」
「でも面接の時に、お客様の隣に座ることはあるって伝えてたよね?」
これが店長の上手いところだった。
確かに面接時に「エスコートでもお客様の隣に座って接客することがある」と伝えられており、私もそれに了承していた。
しかし、「ドレスに着替えてキャストとして席に着くことがある」とは言われていない。
「エスコートの仕事を置いておいて、ドレスに着替えてまで接客するとは聞いていません!」
「そんなこと言ってもキャスト足りないんだから!」
抗議してもこういなされて終わる。
圧の強い店長に対してあまり強く言えない私は、すごすごと引き下がるしかなかった。
しかし実は、これにはひとつ、利点があった。
それは、エスコートであるにも関わらず、“指名”されることが稀にある、という点だ。
指名されると時給とは別に、“指名バック”と言う名の給料が上乗せされる。
その他にも、指名はされなくともお客様からドリンクを一杯頂けることがあり、それも“ドリンクバック”としてドリンク代の何割かを給料に上乗せされる。
若いエスコートは珍しく(そもそもエスコート自体が珍しい)、お客様にはよくドリンクを頂いたり、私を気に入ってくださったお客様は稀に指名してくださることがあった。
また、お金の持っているお客様からチップを頂くこともあり、それが席に着いていると頂く頻度も高くなる。
おかげで私は時給に加え、ドリンクバックと指名バックとチップを頂いており、言い方は悪いがかなり荒稼ぎ出来ていたわけである。
しかしキャストとして働いていれば、その分時給はエスコートよりも高いので、もっと稼げていたに違いないのだが…。
とまあ、こういった事情もあり、私は店長に強く「キャストとして席に着きたくない」と強く言えないでいた。
給料をそれだけもらえるなら、たまにキャストをやる分にはいいのでは?と思われるかもしれない。
しかし私は、出来るだけキャストとして席に着きたくない理由があった。
ひとつ、以前ガールズバーで働いていたことがあり、仕事として男性(お客様)のお相手をするのは合わないと感じていた。
1ヶ月程だろうか、小遣い稼ぎにと短期で働いてみたことがある。
自分はわりとコミュ力のある方だと思っていたし、ただ会話するだけなら楽だろうと高を括っていた。
しかしこれがかなりの神経と気力を使う。
ガールズバーやキャバクラは、たった20〜30分でキャストが入れ替わる。その短時間の中でどう話を広げていくか、お客様との共通点はあるか、どの話なら盛り上がるかを探りながら会話を続けるのは至難の業だった。
団体で来ているお客様には、お客様全員とついているキャストにも気を配らなくてはならない。
楽しいと思うことは多かったが、それでも長期間やろうとは到底思えなかった。
ふたつ、私を指名してくださるお客様の質がとことん悪い。
指名していただいている身でこう言うのもあれだが、本当に悪い。
お尻や太ももを撫で回されるくらいなら可愛いもので、いきなり胸を揉まれたり、ドレスの胸元に直接手を突っ込まれたこともあった。
しかしこれでもまだマシな方で、ひどいと顔を舐められたりもした。
唇にキスされそうになったこともあり、これは全力で避けたが、結局唇の端にガッツリキスを頂いた。
一番ヤバいエピソードは、座ったままズボンに片手を突っ込み、自分を慰める行為をおっ始めるお客様がいたことだ。
開店間際でそのお客様しかおらず、仕切りでボーイに見えない角度でゴソゴソやっておられた。
何度かトイレに立ち、また席についてはゴソゴソ。
地獄のような時間としか言いようがない。
キャバクラでのお触りは基本的にボーイから注意があるのだが、うちの店は「客をあしらうのも仕事のうち」という店長の方針で、ボーイが注意に入ることはあまり無かった。
(これについては後々また詳しく書いていくとする)
そういう事もあって、私はお客様の好きなようにもみくちゃにされ、指名される度に疲弊していった。
店長からは「もう少し客のあしらい方を勉強した方がいい」と言われ、ボーイの先輩には例の自分を慰めるお客様をおもしろがり、私の反応を楽しんでいるようだった。
先輩は「直接手を出していないし、他のお客さんもいないんだから、慰めるくらい良いんじゃないかw」と言われ、もうどうにもならない事を悟った。
そんな私を見たキャストの子からは、「指名してくるお客さんヤバい人ばっかだね」「エスコートのはずなのに、店長もひどい扱いをするよね」と同情的な意見が多く、励ましてくれたりととても良くしてもらった。今でも感謝している。
とまあこんな具合で、私はエスコートという立場にも関わらず、キャストとしても扱われることもあった。
何度店長や先輩に「私はエスコートなんですけど!!」と抗議したことか…。
因みに、客引きをやっている時に他店のボーイから聞いた話では、私の務めたキャバクラはキャスト(女の子)の扱いがかなり雑で有名だったらしい。
「そんなところでエスコートだなんて」と、これまた他店のボーイに同情されたときは、思わず涙が零れそうになった。
キャバ嬢ではなく、黒服やってました。 @sakura-moti-2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。キャバ嬢ではなく、黒服やってました。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
頭おかしい現役JKの日記。最新/そらちゃ。
★64 エッセイ・ノンフィクション 連載中 210話
須川庚の日記 その3/須川 庚
★15 エッセイ・ノンフィクション 連載中 232話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます