◆◆ 1-2 皇太后ランハ ◆◆

【 タイシン 】

「陛下には、ご機嫌うるわしゅう――」


 タイシンらが足を運んだのは、宮城の東にある、広大な離宮の一角であった。

 貴人の前にひざまずき、礼を示しているタイシンにむかって、


【 貴人 】

「壮健そうでなによりね、タイシン」


 御簾みすの奥から、軽やかな女の声音が響いた。


【 タイシン 】

「しがない行商人ごときに、拝謁をお許しいただき、恐悦至極にございます」


【 貴人 】

「また、化粧代おこづかいを持参してくれたのでしょう? ありがたいわ」


【 タイシン 】

「過分なお言葉にて……ほんのささやかな手土産にすぎませぬ」


【 貴人 】

「そんなことはないわ。あなたも知っているでしょう? ここのところ、実入りがきびしくて……すっかりわびしい暮らしを強いられているのよ」


 ふう、とため息をこぼしたのは、〈コウ・ランハ〉。

 この大宙帝国の皇太后(皇帝の母)にほかならない。


【 タイシン 】

「――それは、陛下にも責任の一端がございましょう」


 などとは、タイシンは言わず、


【 タイシン 】

「ご安心ください、しばしのご辛抱でありましょう。ちょっとした盗賊騒ぎごとき、陛下の御心を悩ませるほどではございません」


【 ランハ 】

「そう? そうね、そうに違いないわね! こんなときのために、将兵ごくつぶしたちにたっぷりと餌をあげているのだもの」


 珠をころがすような笑声がひびく。


【 タイシン 】

「つきましては陛下、お願いの儀がございまして」


【 ランハ 】

「あら、なにかしら?」


【 タイシン 】

「これなる娘を、女官として召し抱えていただきたく――」


 と、タイシンが指したのは、かたわらで平伏して小刻みに震えているホノカナであった。


【 ランハ 】

「あら! かわいらしいこと――あなたの身内かしら?」


【 タイシン 】

「いえ、しかしいささかの縁がございまして。陛下のもとで働かせていただければ、もっけの幸いにございます」


【 ランハ 】

「まあ、そうなのね? でも、ああ、そうね――」


【 タイシン 】

「もし、すでに人手が十分ということでしたら、〈西の陛下〉にお預けしようかと」


【 ランハ 】

「あら、それは結構なことね! ええ、ええ、それがいいわ、そうしなさい」

「なにしろ、あの子の侍女なら、いくらいても足りないほどなのだから――」

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