第54話
披露宴も無事に終わり、現在二次会である。
見に来てくれた人たちへの挨拶を全て終え、時間まで各々ゆっくりすることになった。この自然なスタイルは、堅苦しいことが嫌いないかにも奏子らしい計らいだった。場の空気が和んでいるのが分かる。
「それにしても凄いサプライズだったね! ナツくん、最期の方も元気そうで良かった」
カイがオレンジジュースを片手に、にまにまとしている。その隣には、リクが立っていた。いつものメンバーにソラの気も緩む。
「あれから10年経ってるっていうのに、なんか懐かしい感じがしないな」
「そりゃあ……ねぇ……?」
あんな不思議体験があったからなぁ……。と三人で思考を同調させた。
「……あの時までは、ナツくんの未練がぼくたちを呼んだと思ってたけど、ぼくたちの未練が、あの頃のナツくんと会わせてくれたんだね」
「そうだな」
「いつまで経ってもナツくんはオレたちの光だな」
「ああ」
色褪せない記憶は、かつての“あの日”を鮮明に思い出させてくれる。今まで見ることができなかった。でも今はちゃんと見ることができる。
「あ。そういえばソラちん」
「ん?」
「起きた時に持ってたっていう携帯、今日あったりするの?」
カイが言う携帯、というのは、ナツのいる10年前に飛ぶ前に手にしていたスマートフォンのことだろう。そうだ。今度みんなで会えるのはいつになるか分からないと思い、持ってきていたのだった。カイもリクも10年前に行った切符でもある、動画内でも出てきた手紙を持ってきてくれていた。
「……すげぇな。本当に10枚以上書いてたんだな、あいつ」
「うん。しかもあれ、この中の一部しか読んでないからね」
「まじか」
「ソラは何をもらったんだ?」
「……え?」
そういえば。自分には何もなかったなと思う。それがこのスマートフォンの中にあるのだろうか。起動させロック画面を解除する。
「パスワードとか分かるの?」
以前、彼が言っていたことを思い出す。
“僕はパスワード設定してないから誰でも見れちゃうね”なんて笑っていた。
その時は“いや、スマートフォン覗くのは犯罪だし、不倫された旦那みたいな気持ちになるから嫌だわ”なんて返した記憶を思い出す。
本当にパスワードが設定されていなかったのでロック画面が解除される。
「これは……」
「ナツくんらしい、最高の贈り物だね」
「……まったく、抜かりねぇなー!」
ロック画面を解除すると、そこには写真フォルダのみが、データとしては残っていなかった。不思議な光景だった。恐る恐るタップしてみる。その中には――アナザーデイズとして生きていたナツと、ソラたちの『日常』が撮られており、更には何回かピアノの練習を撮影していたのであろう映像が残っていた。
練習の動画では自撮りに苦労している様子や、奏子に撮ってもらっているもの。真剣な表情のナツ。そして衰退しているナツの姿もあった。以前はピアノを弾くことに抵抗があったと言っていた彼だったが、人の為に弾くことの楽しさを思い出したのだそうだ。それを知っていたからだろうか。動画の中のナツは今までの彼よりも
「……ナツくん本当に楽しそう。こっちまで嬉しくなっちゃうね」
「そうだな。……はぁ、1本取られたなあ」
「敵わないな、ナツくんには」
「勝とうとも、勝ってやるとも思わないさ。ナツはナツだし、俺は俺だし。……ありがとうナツ。最高のお祝いだよ」
フォルダの最後にあったのは、アナザーデイズで撮った四人の集合写真。いつにもなくナツが満面の笑みで写っているものだった。
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