第43話
しかし、どうしたものかと現実に返った時には遅かった。
ナツに花火を映像として大々的に見せてやると意気込んだはいいが、その企画を実行に移すにはまず材料が無ければ話にならない。それに彼の命もあといつまで保つか分からないので時間との勝負でもあった。
「材料がまず無いとどーもなー……」
ソラたち“アナザーデイズ”は、夏休みの残りを全てナツの為に使おうと集まった。元々彼らがこの10年前の世界に来た(連れてこられた?)理由がナツの為という結論に至ったので、この時間の使い方が一番有効で、かつ、自然な流れだった。
――いや、そうではなく。
「動画内から寄せ合わせて作るとか? 時短出来るし!」
「それじゃあ思い出が少ないだろ」
「だけどどうする? 思い出を重要視しすぎても時間が無い」
「そうなんだよなあ」
「シャク。じゃあ隣町まで範囲広げて今日から、シャクシャク、夏休みが終わる来週までに花火大会を片っ端からシャクリ、撮影しに行くっていうのは?」
「お前、大事な話してる時にかき氷を食うんじゃない」
「だって食べないと溶けるから~!」
「なんで駄菓子屋の前でこんな会議なんか」
「だからしょうがないだろ……俺ん家のクーラーがぶっ壊れたんだよ」
「熱暴走してショートするなんて、どんだけ弱いんだよあれー!」
シャク、というかき氷の音が無駄に耳に届いた。
確かにカイの言っていることも一理ある。時短も大切だ。勿論。だがソラはナツに対し思い出を作らせてやりたいと考えていた。それは
ソラたちはまずネットで山代町とその隣町で今日の夕方から明日の夕方までの一日で花火をやる場所を探した。だがやはり簡単には見つからない。
探し始めてから既に5時間が経過し、空も暗くなりつつあった。これではせっかくの企画が台無しになってしまう。何か、何かいいものは無いのか。
悩んだ挙句、時計は夜の8時を回った。さすがに作業に行き詰まり、カイもリクも何も思い浮かぶことは無かったようだ。
「仕方ない。今日はもう諦めよう」
「え、なんで? 嫌だよ。もうちょっとだけ探そうよ」
「だけど……」
リクがふと何かを思いついたのか「なあ、ソラ」と肩を2回ほど叩いた。
「ん?」
「あれでは、ダメだろうか」
リクが指さしたそれは、どこにでも売っている花火セットだった。
「綺麗な花火を見に行って撮影するということよりも、ナツくんにはオレたちといっしょに花火をしてもらった方が思い出に残るんじゃないだろうか。疑似体験にはなってしまうが」
なるほど。盲点であった。
ソラはどうにかして山代町周辺で行われる大きな花火大会のカメラに収めそれを編集しようと考えていた。けれどきっと彼は、彼が望んだ正解は“みんなで花火を見る”ということなのだ。
「……リク、ありがとう。焦って前が見えてなかったみたいだ」
「いや。お前はいつも前を向いている」
「ふっ」
――よくもまあそんなクサいセリフが言えるものだ。と、ソラは苦笑した。
「よし、カイ! どの花火がやりたい」
「う、うん! えと、えと……これとこれかな?」
カイが選んだものは家族用のよくデパートに売っているような花火セット。線香花火、ねずみ花火、小型の打ち上げ花火まで揃っているお徳用パックだ。
購入し、早速動画の撮影を開始する。場所は勿論、ソラの家の庭である。夜ということもあり、昼間の暑さが嘘のようだった。
「……よし、カメラ回った。はい! こんばんは。アナザーデイズのソラと」
「カイと!」
「リクです」
「この動画はもうひとりのメンバーであるナツこと、星川夏人くんに向けて撮影しています。みなさんが、この動画を見て何を感じるかは分かりません。でももし何かを感じてくれたならこの動画を撮影した甲斐があったと思えます」
ソラは前置きを言い連ね、最後に一礼した。
本当はもっと言いたい。言い足りない。伝えられなかったことが10年分あるのだ。けれどそれはカイもリクも同じ。ソラはぐっと堪えて笑顔で始める。
「……ナツ! 花火をしよう! 戻ってきたら思い切り、お前のやりたいことをやろう! 俺たちはずっと、待ってるからな!」
「よーし! それじゃあ早速始めようか! じゃーん、今回はこのお徳用パックを使って遊んで行こうと思いまーす!」
「花火のお徳用パックなんて
「買おうとしないからな、普段。捨てるのめんどくさいし」
「リっくんでもそんなこと言うんだ。意外!」
「こういうのってファミリー向けだろ。オレたちもう大人だし……」
「リっくん、冷めてるな~」
「何やる?」
「やっぱ最初は打ち上げ花火?」
「ド派手に行くねえ。いいんじゃない?」
「……ていうかソラ、それをOKするのはいいんだけど、近所迷惑なんじゃ」
「あ。」
ソラとカイは声を揃えた。早く打ち上げ花火をナツに見せたくて迷惑のことを考えていなかった。いい大人が集まって、危なかった。
結局、打ち上げ花火は断念した。時刻が22時を回っているということもあり、噴射式の花火と線香花火を中心に撮影することにした。
「この花火、久々に触るな~」
「なんだか……童心に帰るな」
「やめろ。今の俺たちにその言葉はかなり刺さる」
「ソラちん、認めるんだ。ぼくらはおっさんなんだよ」
「認めるかっ! せめてお兄さんでありたいわ」
そうこう言っているうちにリクが噴射式花火に火を点けた。手に持っていた花火が急に火を放ち、火花が服に飛び散る。掌に付いた火花が熱い。先端部分が徐々に根本に近付いてくるにつれ熱さも増してくる。
「リっくん、なんの前触れもなく火ぃ、点けたね」
「いや、早く見たいって言ってたから」
「そういう意味じゃ、
最初に白く光って、その後は赤、緑、黄色と色が変わっていき煙と化す。
「……まずは1本目、終わっちゃったね」
「ああ。あっけないな」
「もう1本、やろう」
カイはもう1本を手に持ち火を点けた。シャアーという音と共に光が散乱する。カイは「二刀流!」と言って、子供の頃誰しもがやったであろう花火を振り回す遊びを始めた。目がチカチカとして見ていて危なっかしいとも思えるが、確かにこれはやりたくなる。
「終わっちゃった。次は文字を書こうかな~」
「あ、悪いカイ。もう使い果たした」
「そ、そんなー!」
カイはとても残念そうにした。リクはいつの間にかカメラ役に徹しており、その表情をアップで映していた。
「じゃあ次の花火、いってみようか」
それから小1時間程、近所迷惑にならない程度の花火を楽しんだ。どうしてここにナツがいないんだろうと、ふと脳裏に言葉が浮かんだ。だが、これは動くことのできないナツと一緒に花火をやる為に、一緒にやっていると感じてもらうために撮っているのだ。
悔やむな魚波空。覚悟して決めたことだろう。
大量にあった花火も、残すところ線香花火のみとなった。
「……早いねえ。もう終わりじゃんか」
「楽しい時間というのは、いつだって過ぎるのは早いものだよね。さあ、やろう」
線香花火に火を点け、ただじっと待つ。
何かは、何かが始まれば、いつか終わりが来る。この花火も今、頑張ってその命を燃やしている。
「…………綺麗だな」
「うん。とっても」
「いつまで、保ってくれるかな」
「さあね」
「……打ち上がって、咲いて、散って。花火って桜みたいで儚いものだよね。逆にそれが美しいって言う人もいるけど、ぼくは少し悲しくなる……」
カイの言葉はソラとリクにも酷く刺さった。
「あ」
一番初めにリクの火玉が落ちた。
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