第14話

 本日の授業が全て終了し、部活に行く者は部室へ行き、期末テストも近いので教室で勉強をする者はそのまま教室に残っていた。

 ソラたちは俗にいう『帰宅部』であった。地元の幼馴染同士で結成した動画クリエイター集団『アナザーデイズ』は今日も下校後に集まり撮影をする予定だった。


「で、今日は何を撮る予定なの?」


 カイがワクワクした目でソラを見る。おいおい、そんな純真な目で見つめるなよ……中身が27のおっさんに。そのことをこの夢から醒めるまでの期間隠しきれるのか、ソラは不安であった。


「今日なー、どうしようなー」


「この前出来なかった“ラムネのビー玉取ってみた”とかは?」


「あ、あ、それやりたいやつ! それにしよーよソラちん!」


「……ねえ、さっきからなんの話をしてるの」


 ナツが恐る恐る会話に介入する。カイはそのことになんだか嬉しそうにしていた。


「ナツくん! あのねあのね、ぼくたちの動画を撮りに行くんだけど……。あ、そうだよソラちん、ナツくんも誘ってみようよ!」


「え?」


「人は沢山の方が楽しいし、ね? 都合さえよければ!」


 ナツはカイの発言に若干焦る。おいおい、いきなりキャスティングして大丈夫か? 動画に出るってことは世間に顔を公開するってことだぞ? 肖像権は無視か?


「ああ。別にいいよ」


 ――いやいいんかいっ⁉


 いやいや。もともとそういうのには軽いノリでノる方だとは思っていたけれども。ソラは改めてナツが分からなくなった。


「楽しそうだし、今日は特に予定もないし。付き合うよ」


「やったー!」


 カイは物凄く喜んでいた。ナツも楽しそうにしていたのでソラは止む無くナツも動画撮影に参加させることにした。


 ――ナツが楽しそうならいいか、この際。なんて、妥協する自分がそこにいた。


「ナツくん」


 リクが珍しくナツに話しかける。


「ごめんね。カイが我がまま言って」


「我が侭だったの? いいよ。家にいてもつまんないし。むしろ誘ってくれて助かったくらいだから」


 家に帰っても、また薬の投与が待っているだけだしな。ナツは一瞬暗い表情をしたが、すぐに持ち直した。リクがその表情の切り替りを見過ごすはずなど無かった。


「……無理は、しない方がいいよ」


 リクがボソッとナツにしか聞こえるか聞こえないかくらいの声量で後ろから呟いた。その言葉を聞いた瞬間、ナツは急にリクの方を振り向き、目を大きく見開いた。ソラはリクが何を言ったのか聞き取れなかった為、その行動の意が分からなかった。


「リクくん、」


「それに少し顔色が悪そうだから、もしキツくなったら言ってね」


 その言葉がナツの心をえぐる。声も出なかった。ただ、1秒が長く感じた。


「ナツくん? どうかしたの?」


「カイ、くん。な、なんでもないよ! それよりも撮影するんだろ? まずは何をするんだい?」


「う、うん。まずは――」


 カイは頭の上に「?」を浮かべつつ、すぐに笑顔を取り戻し、ナツの手を引いた。カイの笑顔を見たナツは気が緩んだのか、ほぅと吐いた。笑顔をすぐにつくろい、先程までの動揺を隠したようだった。

 カイは不思議な力を持っている。誰に対しても子供のように接し、かつ、その笑顔は相手の心を癒す。ソラも、リクも、彼のおかげでいつも和んでいる。


「よし。カイ、駄菓子屋行くぞ」


「はーい!」


 ソラたちはいつも三人だった。

 三人だけの空間がいつもの時間だった。

 そこに現れた異質な新しい風、星川夏人。

 彼が、止まっていたソラの時間を再度動かしていく。

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