第7話
「あ、ここだよ。ちょっと待ってろ」
ソラの家に着いた途端、ナツは「すごい」と声を零した。そこはなんとも民家らしい民家で、一度は住んでみたいと思う、まさにナツにとって理想の家屋だった。
ソラは自転車を庭に置きに行く。ナツはこの間どうすればいいのか分からず、とりあえず玄関の前に立っていた。少し経った頃、こちらの会話が聞こえていたのか家の中から足音が聞こえていた。玄関先の電気が点いた。
「ソラ、お前今何時だと思ってるんだい! って、おや?」
「あ、こんばんは」
驚いたあまり、まず何を言えばいいのか分からずナツはとりあえず挨拶をした。するとその人は先程までとは打って変わって笑顔になった。
「こんばんは。あなた、このくらいの身長のいけすかない顔をした少年を知らないか?」
ソラによく似た、強かな女性が戸を開けた。少し年老いた印象のその人はきっとソラの祖母であろうか。ナツはまじまじとソラの祖母、美舟を無意識に観察した。
「何か?」
「あ、いえ。……ソラ、くんなら先程、自転車を置きに庭の方に――」
「げっ‼ ばあちゃん!」
ソラが庭の方から戻ってきた。美舟の方をちらりと見ると驚愕しているようだった。それもそうだろう。可愛い自身の孫がこんなにボロボロになって帰宅してきたのだ。きっと家族としてはこの姿、悲しいこと極まりないことだろう。
「あ、あの、実はこれには理由があって、」
そしてその彼をボロボロにさせてしまったであろう原因は自分にあると考えたナツは話を遮ろうと声を出した。が、遮ることはできなかった。する前に美舟が怒鳴ったのだ。
「ソラ! お前
「いってぇ! 違うって! 川で遊んでたら、すっ転んでこうなったんだよ。こいつに助けてもらったの。最近引っ越してきたばかりだから帰り道分からなくなったらしくてさ。だから、助けてもらったお礼も兼ねて連れてきたんだよ!」
「え。」
あながち間違いではないけれど。話の大筋は大体合っているけれど。弾丸にも似た言葉たちがナツの前で飛び交っている。しかし強がっているように見える彼は若干内心テンパっていた。よほど美舟のお叱りが効いていると見た。
「そうだったのかい。うちの馬鹿が世話になったね」
「あ、えと」
世話になんて何も。むしろこっちがお世話になったのに。と、すぐに言えなかった。ナツの中で罪悪感が少しだけ募った。
「お上がりな。外はまだ寒い。ソラ、お風呂を溜めておくから沸いたら入ってしまいなさい」
「わかった」
「ありがとうございます」
ナツはお礼を言い、ソラの家へとお邪魔した。とても優しいにおいのする場所だ。彼も優しいし、彼の家族もまた同じ。きっとこの家が暖かく感じるのも、心からこの家のことを愛しているからだろう。ナツの顔から自然と笑みが溢れる。
――この温かさが、うちにもあったらな。
なんて、叶いもしない願いをナツはぽつりと床に呟いてみた。
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