第7話 紫の瞳
それは、黒い巨大な節足動物の足だった。その黒い足が、勇者一行の剣からクロムを守っていた。
「何だ、これは!?」
得体のしれない物体に一同は狼狽え、クロムから引き下がる。
よく見ると、クロムの足元に巨大な魔法陣が浮かび上がっており、黒い足はその魔法陣から生えていた。足は徐々に外に出てきて、最後に本体が姿を現す。それは、3体の黒い巨大な蜘蛛だった。
「女王蜘蛛!?貴様、魔物使いか!?」
レオンがクロムに向かって、そう問うた。
しかし、クロムは答えず、かわりに右腕を横薙ぎにゆっくりと広げた。すると、さらに無数の魔法陣がそこかしこに現れる。そして、魔法陣から数十体の魔物が次々に姿を現す。
オーガ、サイクロプス、ウェアウルフ、ゴーレム、グール...さらに、下級悪魔のレッサーデーモンまでいる。
「馬鹿な...」
一同は驚愕した。魔物使いという職種は確かに存在する。だが、低級の魔物を数体使役するのが限度だ。ところが、クロムは中級から上級の魔物を同時に数十体も召喚してしまったのである。
「まさか...」
レオンの頭の中に恐ろしい推測が浮かんだ。この世界には、魔物たちを自在に、無限に、使役できる存在がたった一つだけある。それは、魔物たちの王だ。
「お前は、まさか...」
震えるレオンを睨みながら、クロムは抑えていた魔力を開放する。クロムの魔力は物理化し、風圧となって、周囲に放たれる。そして、それと同時に、クロムの瞳の色が、緑から紫に変わる。
「紫の瞳...じゃあ...お前はやっぱり...」
その光景を見て、レオンの推測は確信に変わる。
「我が名は、クロム=アレイスター。〈闇の七芒星〉七人の魔王が一人である」
膨大な魔力を垂れ流しに放ちながら、クロムは静かにそう名乗った。
この世界では、転生者の中から、〈光の七芒星〉と呼ばれる七人の勇者が現れる。そして、それと対をなす存在がある。七人の魔王、〈闇の七芒星〉である。そして、魔王が力を開放した時、瞳の色は緑から紫に変わるのである。
クロムの言葉を聞くやいなや、一同は悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすようにその場を逃げ出した。
が、クロムの呼び出した魔物たちにことごとく捕まっていく。そして、そこかしこから、阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくる。
勇者一行の首魁たるレオンは、逃げることもできず、その場で腰を抜かしている。
クロムはゆっくりとレオンの方に歩いていく。
「待て!!待ってくれ!!悪かった!!俺たちは手を引く!!そこの袋の中にドラゴンがいる!!あんたのものだ!!だから、見逃してくれ!!」
レオンは必死に命乞いをする。
「つれないことを言う。せっかく、宿命の〈光の七芒星〉と〈闇の七芒星〉が出会えたんだ。どちらかが死ぬまで殺し合おう」
クロムはまるで、数十年ぶりの同窓生との再会を心から喜んでいるかのような、楽しそうな口調でそう言った。
「違う!!俺は〈光の七芒星〉じゃな...」
レオンの言葉はそこで打ち切られた。
突如、天から一本の槍が降ってきて、レオンの腹に突き刺さったのだ。
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