第6話 陰謀

クロムはゆっくりと一団に近づいてきた。

「貴様、なぜここにいる!?ゴブリンたちはどうした!?」

レオンは腕に刺さったナイフを抜きながら、クロムに言った。

「ゴブリン達なら帰りましたよ」

クロムはそう言って、左手に持っていたものをレオンの足元に放り投げた。

それは、ランプのような容器で、中にお香が入っていた。

「これはっ!?」

レオン達はそれを見て驚愕する。

「誘魔香。特殊な香りで、魔物を引き寄せるアイテムです。希少アイテムですが、これはその中でも1番手に入りやすいゴブリンを引き寄せるものですね」

クロムは悠然と、そのアイテムの詳細を解説した。

「ゴブリンが襲来したあと、すぐに誘魔香は消しました。仕掛けてある場所は事前にチェックしてましたので」

「馬鹿な!誘魔香を消しても、興奮したゴブリン達がすぐに引き上げるわけがない!」

「ええ、だから、誘魔香を消したあと、ゴブリン達と少し話合いをして、丁重にお帰り頂きました」

「話合いだと!?」

「ええ、言ったでしょ。魔物の相手は慣れているって」

クロムはそう言って得意気な笑みを浮かべた。

「それより、誘魔香について随分お詳しいようですね。勇者レオン様?」

クロムはそう言って不敵にレオンを睨む。

「そりゃあ、そうですよね?だって、この誘魔香は貴方々が仕掛けたんですから」

クロムの言葉に驚愕し、ルーシアはレオンに怒りの眼差しをむける。

「レオン様!なぜ、そんなことを!?」

「理由は、まさにこの状況を作り出すためです。魔物がルディを狙っているという情報を流し、護衛として城内に入り込み、誘魔香を仕掛ける。そして、ゴブリン襲撃の混乱に乗じ、ルーシア様とルディを避難させると称して、城外に連れ出し、適当なところで、ルーシア様を殺害し、ルディを連れ去る。そう、ルディを狙っていたのは、ゴブリン達ではなく、貴方々です」

クロムはレオン達を指差して、そう言い放った。

「レオン様!?何のためにルディを!?」

「人が卵からかえして、育てたベビードラゴンなんて希少この上ない。買い手はいくらでもいますよ」

「黙れ、何を証拠に!!だいたい貴様など、小銭目当てにすり寄ってきた、無名の卑しい底辺冒険者のくせに!!」

レオンは腹立ち紛れに、クロムを指差してそう言った。

「いいえ、俺の目当ては、お金ではありません。貴方々と同じ、ルディです」

クロムは急に声のトーンを落としてそう言った。

「え?」

クロムの言葉にルーシアは耳を疑った。

「ここの領主様がベビードラゴンを所有しているという噂を聞いて、どうしても欲しくなってこの街に来ました。どうやって城に入り込もうかと思案していたところ、領主様が冒険者を募っているというじゃないですか。それであっさり城に入れて、喜んでいたところに、貴方々が現れたというわけです」

クロムは淡々とそう語ったあと、申し訳なさそうな顔で、ルーシアの方を見た。

「クロム様...嘘ですよね...貴方まで、ルディを奪うためにやってきたなんて...」

ルーシアはクロムの口から語られた真実に絶望し、目に涙を溜めながら声を震わせている。

「すみません、ルーシア様。本当なんですよ。でも...やめました」

クロムはそこで、ルーシアに向かって、にかっ、と笑った

「え?」

ルーシアはクロムの笑顔の意味がわからなかった。でも、その笑顔が、悲しい思いをさせてすみません、でも、もう安心してくださいと言っているような気がした。

「ルーシア様は、ルディのことを〈友達〉だとおっしゃった。〈友達〉は、〈奪うもの〉じゃなくて、〈作るもの〉です」

クロムは清々しそうに、そして力強くそう言った。

ルーシアはその言葉で思い出した。

ルディが生まれてから、誰もルーシアとルディの関係を理解してくれる者はいなかった。

みんな、ルディのことを怖がった。

みんな、ルディのことを気味悪がった。

でも...


『ルーシア様とルディは私がお守り致します』


あのときも...


『こんにちは、ルディ。君って意外と軽いんだね』


あのときも...


『それは光栄だ。ルディ、君は俺の友達になってくれるのかな?』


あのときも...


クロム様はずっと...ルディのことを...

一人の尊重すべき存在として見てくれていた...

愛すべき存在と思っていてくれた...

友達になろうとしてくれていた...


ルーシアの目に溜まっていた涙がそこで流れ落ちた。


「何をワケのわからないことを!!結局お前も目的は俺たちと一緒だったんじゃねーか!?だったらもう容赦はしねー!!お前ら!!この底辺冒険者を始末しろ!!」

レオンの掛け声で、勇者一行は一斉にクロムに飛びかかった。

が、一同の抜き放った刃がクロムに到達する直前、大地から黒い何かが現れた。

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