第5話 人と魔物

ルーシアを連れた勇者レオン一行は、裏門から城を出た。城の後側には小高い山が横たわっていた。一行は山の頂上に続く小道を進んだ。レオンはずっとルーシアの手を掴んでいる。

「この辺でいいか」

山の中腹辺りでレオンがそう言って立ち止まった。

ルーシアはレオンの意図がわからず、顔に疑問符を浮かべている。

「やれ」

レオンがそうつぶやくと、レオンの仲間の一人がルディの頭に袋を被せる。

「なにを!?」

思いがけないことに、ルーシアは驚いている。

袋を被せた男は、そのままルディを奪い、もう一回り大きい袋にルディを放り込んで袋の口を縛った。

「ルディ!!」

ルーシアはルディを取り返そうとするが、別の男に背中から羽交い締めにされてしまう。

「ルーシア様、申し訳ありません」

レオンは笑みを浮かべながら、ルーシアに話しかけた。

「レオン様、これはいったいどういうことですか?」

ルーシアは怒りをあらわにレオンを問い詰めた。

「ルーシア様、それはまだ幼いが、ドラゴンなのです。いずれ、我々人間の脅威になります。実際、今日もこのように領主様の城に被害が出ております」

レオンは淡々とそう語った。

「それは...」

ルーシアは反論できず、口籠る。

「ですから、我々がそのドラゴンを責任を持って処分します」

レオンは冷たくそう告げた。

「やめて下さい!!そんな!!ルディは確かに、後々危険な存在になるかもしれません!!でも、今はまだ何もしていません!!私が責任を持って育てます!!私がいる限り、ルディには人に危害を加えさせません!!」

ルーシアは、青ざめた顔で必死に嘆願する。

「無理ですよ、ルーシア様。人は人。魔物は魔物。ドラゴンはドラゴンです。ご理解下さい。人に害をなす魔物を討伐するのが、勇者の責務なのです」

「いや!!やめて!!お願いだがら、ルディを殺さないで!!」

ルーシアは泣き叫ぶ。

「ルーシア様、我々の使命をご理解頂けないようですね?そうだ。いいことを思い付きました。お互い寂しくないように、ルーシア様もそのドラゴンと一緒にあちらに行って頂きましょう」

レオンは笑みを浮かべながら、腰の剣を抜いた。

ルーシアは声を失い、恐怖に顔が歪む。

「そうだ、それがいい。そうしましょう」

レオンはゆっくりとルーシアの方に歩みを進める。

「いや、助けて...」

ルーシアは声を絞り出す。

レオンは剣を両手で振りかぶった。

「安心してください。このあとすぐ、貴方の大好きなドラゴンが貴方を追いかけます」

レオンは両手に力を込めた。

「さようなら、ルーシア様」

「いやぁぁぁぁぁっ!!」

そのとき、ルーシアの悲鳴を切り裂くように、一本のナイフが飛来し、レオンの腕に突き刺さった。

「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」

レオンは叫び声をあげて、剣を大地に落とす。

「嘘を言ってはいけませんよ、勇者様。本当はルディを生かしておくおつもりのくせに」

そんな言葉とともに、城側の道から一人の少年が現れる。クロムであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る