第3話 友達

 クロムは場内を見て回っていた。

ん?この匂いは...

クロムは微かに覚えのある匂いを感じ、中庭に出た。匂いを辿り、きれいに整えられた茂みの一つの中を探る。そして、ランプのような容器を見つける。中にはお香が焚かれていた。

なるほど、これか...さて、どうするか...消しておくか...いや、そうすると、何も起らず膠着状態になる...今は、このままにしておくか...

クロムはランプを元の場所に戻した。

「何してるんですか?」

不意に後から、そんな声をかけられ、クロムはびくりと体を震わせた。恐る恐る後を振り返ると、そこにはベビードラゴンを抱えたルーシアが立っていた。

「これはこれは、ルーシア様」

クロムはできるだけ平静を装いゆっくりと立ち上がった。

「実は、私は植物に造詣が深いもので。領主様の城の庭ともなると、高級な植物ばかりで、じっくりと鑑賞させて頂いていたのです」

クロムは思い付きでそれらしいことを言った。

「そうでしたか」

ルーシアは特に不審に思っていない様子だった。

「ルーシア様こそ、なぜこのような場所に?しかも、勇者様方がおられないようですが」

クロムの言う通り、辺りには勇者一行の姿はなかった。

「その、こんなことを言っては失礼なのですが、私、どうもあの方々の雰囲気が苦手で。それで、すきを見て逃げてきてしまったのです」

ルーシアはおずおずとそう言った。

「それはいけません。いつ、魔物たちが襲ってくるかわからないのです。常に護衛をお側においておかなくては」

「では、しばらくの間、貴方が私たちを守ってくださいませ」

「私で宜しければ」

クロムはそう言って恭しく頭を下げた。

クルルルーッ

不意にベビードラゴンが鳴き声を上げて翼を広げた。そして、ルーシアの手から飛び立ってしまった。

「あ、ルディ!」

ベビードラゴン、ルディはパタパタと宙を飛び回ったあと、クロムの左肩に着地した。

「こんにちは、ルディ。君って意外と軽いんだね」

クロムはそう言って右手でルディの首をくすぐった。

クルルルーッ

ルディは嬉しそうにクロムの顔にすり寄った。その光景を見て、ルーシアは目を丸くして驚いた。

「ルディが私以外に懐くなんて初めてです...」

「それは光栄だ。ルディ、君は俺の友達になってくれるのかな?」

クルルルーッ

ルディはクロムの問いに肯定するように嬉しそうに鳴いた。クロムとルディはしばらく楽しそうにじゃれ合っていた。しかし、クロムは急に真面目な顔になってルーシアに問いかけた。

「ところで、ルーシア様はいつまでルディと一緒におられるおつもりですか」

「え?」

突然のクロムの問いにルーシアは戸惑う。

「すみません、差し出がましいとはわかっているのですが、申し上げます。ルディは赤ん坊ですが、ドラゴンです。徐々に大きくなり、気性も魔物らしくなっていくでしょう。いつまでも人間の中で暮らしていくことはできないと思います」

クロムの言葉にルーシアは沈黙した。そして、しばらくしてからゆっくりと口を開いた。

「私もわかっております。いつか別れがくると。でも、ルディは私の友達なんです。だから、ルディが自分の意思で私の元を離れるまでは、一緒にいたいんです」

ルーシアは目に涙を溜めながら、そう語った。

そのとき、凄まじい爆音が2人の耳に響いてきた...

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