第1話 転生者

 彼はその世界に第2の生を受けた。そこは剣と魔法の世界。魔物が闊歩し、冒険者たちが活躍する世界である。この世界には転生者と呼ばれる前世の記憶を持つ者が稀に生まれてくる。つまり、彼はその転生者であった。彼はごく普通の平民の家庭に生まれた。彼はクロムと名付けられた。クロムはこの世界に転生できたことを心より感謝し、健やかに育った。そして、13歳になった日、クロムの才能が開花した。クロムは自らの宿命を悟り旅に出た。そして、3年の月日が流れた。


 クロムはとある街を訪れていた。大陸の西、クランツ王国の辺境、オーセルの街である。クロムは街に着いたあとすぐ、情報収集のため、街で一番大きい酒場に入った。酒場にいた者たちは、見知らぬクロムの姿に注目した。

クロムは黒髪に緑の瞳で、黒いローブに身を包んでいた。

クロムはカウンターに座り、この店で一番安い料理と水を頼んだ。

そして、ふと隣に座っている若い男と目が合った。そして、2人は互いの目を見て驚愕した。2人とも緑色の目をしていた。

「あなた転生者ですか?」

クロムは男に問いかけた。

「そういう君も!」

男は答える。

この世界の転生者はみな緑色の目を持って生まれてくるのである。故に転生者は目の色ですぐにわかってしまうのである。

「いやー、俺、同じ転生者に会うのすごい久しぶりですよ」

クロムはしみじみとそう言った。

「俺もだよ」

男も同じ転生者に会えたことを喜んでいる様子だった。

「俺、クロムと言います」

「俺は、アルフォードだ。よろしく」

アルフォードはクロムより少し背が高く、顔つきも2,3歳年上の様相だった。茶色の髪を耳が隠れるところまで伸ばしており、緑色に塗装した軽装の鎧を身につけている。そして傍に刀身の大きな槍を携えている。

「この街には来たばかりなのか?」

「ええ、今、着いたばかりです」

「そうか、俺は昨日、この街に来た。〈光の七芒星〉の1人、勇者レオンの一行がこのあたりに来ているという噂を聞いてな。仲間に入れてもらおうと思って探しているんだ」

「〈光の七芒星〉ですか...」

〈光の七芒星〉とは、転生者の中から現れる七人の勇者のことである。転生者は身体能力や魔力が優れていることが多いが、勇者の能力は超人の域であると言われている。

「俺も、勇者に転生したかったなあ...」

クロムは宙を仰いで悲しそうにそう言った。

「ま、こればっかりはしょうがねーよ。生まれのガチャってのこの世界でもあるんだよ。ところで、お前さんはこの街に何しに来たんだ?」

「ああ、えーと...僕は見聞を広めるための放浪の旅でして、特に目的があって来たわけじゃないんです。ただ、もう路銀がつきそうでして...この街で何か稼ぎのいい仕事はないかと...」

クロムは困り果てた顔でそう言った。

「それなら、さっき聞いたばかりの話で、いい話がある。ここの領主が腕利きの冒険者を募集しているらしい。行ってみたらどうだ?」

「なるほど、それは期待できますね。このあとすぐに行ってみます」

クロムは食事を終えたあと、アルフォードと別れ、領主の居城に向かった。

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