番外編IFその2~もしも、セヴランのウソが大公の耳に入っていたら~ セヴラン&俯瞰視点(6)
「『俺は大きな力を有し、圧倒的な覇気を纏っているからだろうな。あの大公閣下ですら、俺の姿を見たら背筋を正すんだぞ』! 『この男が本気を出したら、きっとワシであっても敗れるだろう――。話を伺っていると、ある時そう漏らしたんだよ。さすがは閣下。よく分かってらっしゃる』! 最近広まり始めたっ、こんな言葉が発端となった噂ですが!! こちらはっ、事実ではございません!!」
閣下の元を去ったあと。俺を乗せた馬車は近くにある街をゆっくりと進んでいて、俺は御者の隣に座って声を張り上げていた。
「この2つの噂はっ、わたくしセヴラン・フィレーダが吐いた嘘でございます!! ご存じのように大公閣下はっ、偉大なる重鎮っ、この国の宝でして!! 大きな大きな方ゆえに、つい、見栄のために御名前を出してしまったのです!! 背筋を正すっ、敗れるっ、そんな事実は一切ございません!!」
普通はまず行わない、異様な乗り方。身を晒しての絶叫。それによって街中にいる人間は全員が唖然となって注目してきているが、そんなことを気にしている余裕はない。
俺は周囲を見回し、更に声量を上げて言い広めてゆく。
「わたくしはぁ!! このセヴラン・フィレーダはっ、大公閣下の足元にも及ばない人間でございます!! 例えるならダイヤモンドと路傍の石なのです!!」
「こんなつまらないやり方で鼻を高くしていた、情けない男なのです!! 噂が広まったことに焦り慌てて否定修正を行っている、無様な男なのです!!」
「小さな小さな、なにもかもが小さな男なのでございます!! 大きく見せたいだけのっ、見栄ばかり張るっ!! ウソつき貴族なのでございます!!」
「おまえたち――失礼致しました!! わたくしの声をお聞きになられている皆様!! どうかご家族やご友人などっ! 周囲の方々にも、この件をお伝えくださいませ!!」
こんな風に、9時間。市井を駆けまわって、まずは平民たちに事実を浸透させる。
そして日が昇れば――失礼のない時間になれば、今度は貴族界に浸透させてゆく。
「今広まっている噂は、俺がついた嘘なんだ!! 俺は小さな男なんだ!!」
「俺には隠している力なんてものはなくっ、たとえ捨て身で突撃しても大公閣下には傷一つつけられないレベルなんだ!! それほどまでに差がある御方なんだ!!」
「だから、あの噂を信じないでくれ!! 惑わせてすまなかった――申し訳ございませんでしたぁぁぁぁ!!」
閣下が仰られていた、『信じてしまっている人』。そんな者達の元をノンストップで訪ね、こう叫んで認識を変えてもらった。
…………よ、よし、これで…………。該当する貴族には、全員説明した。
念のため父上に頼んで、他の貴族にも流布を頼んでるから……。大丈夫、もう、大丈夫……!
無事、目標を達成できたぞ……!!
助かった、ぞ……!!
〇〇
翌日の夜。全ての作業を終えたセヴランは、涙を零して安堵していました。『これで今まで通りに過ごせる』と安心していましたが――そうでは、なかったようです。
確かに大公に問題は解決しましたが、とある場所では『今まで通りには過ごせない』別の問題が発生していて――
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