番外編IFその2~もしも、セヴランのウソが大公の耳に入っていたら~ セヴラン視点(2)
「なあ、お前達。今は、寒くはないよな?」
「「「は、はい。寒さはなく、むしろ暑さを感じております」」」
「……なあ。俺の顔色は、悪くないよな?」
「「「は、はい。良い血色をされています」」」
車内にいる従者と護衛に確認してみると、すぐさま同意が返ってきた。
コイツらが嘘を吐く意味はないし、実際に俺自身が暑さも体調の良さも実感している。なのでその言葉は、間違いのないものだ。
「「「セヴラン様? どうなされたのですか?」」」
「いやな。急に、異常な寒気がしたんだよ」
体の芯から冷たくなって、背中にぶわっと鳥肌が立ってしまう。まるで極寒の中で薄着で立っているような感覚が、一瞬だけやって来ていたのだ。
「こんなことは、生まれて始めてだ。……お前達に、こんな経験はあるか?」
「いえ、ございません」「ございません」「経験はございません」
「だろうな。……だとすると、これは肉体的な問題ではなく…………。もしや、このあと何かよからぬことがあるのか?」
不自然な寒気は、悪い出来事の予兆。そういった話は、何度も耳にしてきた。
「アレは、あまりにも不自然だった。となれば――いや、まさかな。それはあり得ないな」
リッカテール侯爵邸へのルートは安全なもので、野盗などの出没はない。よしんばあったとしても、コイツらがいれば簡単に処理できる。
そして到着後に行われるのは、夜会。何度も出席をしているもの。
それにこの5日の間に『想いのある決別』は貴族界に広まっていて、同情の声だけが届いているんだ。
どこにも不幸をもたらすものはないのだから、気のせいなのだろう。
「まったく、リスタートの邪魔をするなんてな。人騒がせな寒気だ」
俺は足を組んで呆れの大息を吐き、気分転換として景色を眺めながら移動を行う。そうしてここからは、リラックスをしながら進み――。その後問題の発生はなく、予定通りの時刻に目的地にたどり着いたのだった。
「……よし、じゃあ向かおうじゃないか。新たな出会いを求めて、な」
俺は颯爽と馬車を降り、次期侯爵の覇気を纏って歩き出す。
精悍なマスク。圧倒的なオーラ。優れた知能。それらを擁する『御方』が今夜降臨し、闊歩して――
「セヴラン・フィレーダ殿じゃな? 少しばかり、ワシと会話をしていただきたいのだよ」
――闊歩していた俺は、驚きと共に立ち止まることとなってしまう。
こ、この方は、たっ、大公閣下!? 閣下が、俺になんの御用事なんだ……!?
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