エピローグその1 嫉妬した者の未来、金に物を言わせてきた者の未来 俯瞰視点(2)

「なっ!? どうなっているんだ……!?」


 それは、2人が結婚してから2年後のことでした。フィレーダ侯爵家の当主となっていたセヴランの大声が、邸内の一室に響き渡りました。


「セヴラン様っ!? どうなされたのですかっ!?」

「じゃっ、ジャックっ! ここを見ろ!! 大変なことになっているんだ!!」


 大急ぎで駆け付けた初老の男性、先代から仕える家令。その者の名を叫びながら、真正面にあるものを鋭く指さしました。

 大きく頑丈な金庫を。ただし――いつの間にか、中身の9割近くがなくなっていた金庫を。


「ここにあった金が、ほとんどなくなっているんだ!! 何が起きた!? 何者かに盗まれたのかっ!?」

「…………セヴラン様……」

「どっ、どうしたジャック!! なぜ呆れた顔になっているんだっ!?」

「……それは、貴方様に原因がおありであるが故にございます……。セヴラン様が使用されたことにより、ここまで減少してしまったのでございますよ……」


 9割減の理由は、泥棒などではありません。その理由は、彼にありました。


「俺が……!? も、もしやナディーヌへのプレゼントの影響か!? いやしかしっ、ウチは潤沢に金を持っていた! その程度ではこうはならないだろう!?」

「セヴラン様は週に1度のペースで、100万以上もの指輪やネックレスを購入されていました故……。そちらが2年も続けば、こうなってしまいます……」

「こ、ここまで減っていただなんて……。し、知らなかったぞっ! どうして黙っていたんだ!?」

「お言葉ですが、わたくしどもは再三申し上げました。ですがセヴラン様は、大丈夫と仰られて……。別邸にいらっしゃるガエタン様に献言しても、『息子は優秀だ。任せておけば大丈夫だ』と仰られてまして……。お止めする術がなかったのございます」


 そう言われて、彼はようやく思い出しました。まだまだ余裕があると高をくくり、『うるさい!』『口出しをするな!』『いいから言われた額を持ってこい!』などと返していたことを。


「ですが、不幸中の幸いでした。取り返しのつく段階でお気づきになられました故、破産などは回避できます」

「そ、そうかっ。だ、だが……。これではもう……。今までの暮らしは、できない、よな……?」

「……残念ながら……。せめてもう少し早く聞き入れていただければ、可能だったのですが……。不可能で、ございます……」


 豪華な食事を摂ることも、高価な服を買うことも無理。そうしっかりと認識してしまったセヴランは崩れ落ち、


「こんなことに、なるなんて……。こんなことになるなんて…………」


 こうして彼の日常は、180度変化。あの時はポンと出した、慰謝料の2億。あの日の行動をいつまでも後悔し続ける、1ルピスさえも無駄にできない日々が始まってしまうこととなったのでした。

 そして――その影響は当然、夫人であるナディーヌにも及びます。


「うふふ。今週は、エメラルドのリングを買っていただこうかしら」


 同時刻ナディーヌはそんなことを考えていましたが、高価な貴金属を購入することはもうできません。こうして彼女の日常もまた一変し、メリットが何もない、デメリットしかない生活が始まることとなるのでした。


 そうして――

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