第15話 数時間前のやり取り~当主来訪の理由~ ナディーヌ視点

「なんだって!? セヴラン様と結婚したくない!?」


 あの地獄のような夜会が終わっておよそ13時間後の、午前10時。ようやく落ち着いたわたくしは執務室へと向かい、そうすると室内にはお父様の大声が響き渡った。


「なぜだ!? あんなに愛していたじゃないか!? どっ、どうなっているんだっ!?」

「実を言いますと、あれには他意がありましたの。エリザベットの元婚約者、そこに大きな価値がありましたの」


 ライバルを追い抜けると思って接触し、関係を持っていたコト。セヴラン様が仰っていたことは嘘で、あの人は微塵も好意を抱いていなかったと知ったコト。あちらは次期公爵様と婚約したと知ったコト。

 それらによって価値は0となって、そんな人と一緒にいる意味はない。この縁をなかったコトにすると、お伝えした。


「そ、そうか……。そうだったのか……。……だが、ナディーヌよ。すでにその件は成立してしまっている上に、あちらは侯爵家だ。こちらの都合、そんな理由では白紙にはできんぞ……?」

「そちらは、ちゃんと理解しておりますわ。だから『関係を切る』のではなく『関係を切らざるを得ない状況』を作りますの」


 昨夜の乳母の件を思い出して、それを活かして策を用意しましたの。


 わたくしは突然原因不明の体調不良に陥り、お屋敷から一歩も出られなくなってしまった。体調が芳しくなく、面会もできない。


 こうお伝えして、一秒たりとも会えない状況を作る。そうすれば『このまま関係を持っていたら何もできなくなってしまう!』と思うようになり、あちらから切ってくださるんですの。


「わたくしの、個人的な理由で縁を切ろうとしたら――もし上手く解消できたとしても、世間体に大きく傷がついてしまう。社交界に二度と出ていけなくなってしまいますもの。ちゃんと考えておりますわ」

「……ふむ、なるほど。さすがはナディーヌ。それならば可能だな」

「ええ、どこにも問題はありませんわ。ですから、お父様。そちらの連絡を、お願い致しますわ」

「可愛い娘の頼みだ。分かった。約束の時間は、午後2時だったな? その時に合わせて伺うとしよう」



 〇〇



 ……はぁ。

 わたくしは大きな勘違いをしてしまっていて、1年以上も無駄な時間を過ごしてしまっていましたわ。

 けれど、ここからは違う。こんな縁はさっさと切って、新たな恋をしてっ。今度は『幸せ』の多さで、エリザベットに勝ちますわ……!!

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