第10話 婚約~出会い~ ジュスタン・ライズネルト視点
それは今からおよそ、1年前。僕は3つ隣の国フェリネスにて、少々変わった経験をした。
遠く離れた異国で同国の女性と出会い、恋をすることになったのだった。
「リンダ……? リンダっ! どうしたのですかっ⁉」
「ぅ……っ。坊ちゃま……。蜂に、刺されたら……。急に、息が、くるしくて……。ぐぅぅ……っ」
この国の公爵家・リンデラーク家に嫁いだ姉上が、第一子を出産する。その付き添として3日間滞在し、無事新たなる生が誕生したため帰路についていた時の事。馬の休憩と同行者への労いもかねて、道中にあるフェリネスにある観光名所の一つ・ヒマワリ畑を訪れていた際だった。
同行してくれていたメンバーの1人――姉上の乳母が突如苦しみ始め、その場に蹲ってしまったのだ。
「り、リンダ殿!? たっ、大変だ!! しっ、至急運ばないとっ!!」
「
「私はサーゼランに属するニーエイル伯爵家の娘でございます! 多少ではありますが医学の心得はありまして、応急処置をさせていただきますっ」
リンダを抱え上げようとしていると侍女を引き連れた女性が現れ、持病の有無などを僕に確認した後、テキパキと処置を施してくれた。おまけにその人は同行を提案してくださって、
「過去に刺された経験がないのであれば、原因は蜂に刺されたショックです。心と体が驚いてしまって、パニックになってしまっているだけですよ」
「そちらは落ち着きさえ取り戻せば、次第に収まってまいります。ゆっくりと、息を吸って吐いてください。命に別条のあるものではありませんので、慌てる必要はありませんよ」
車内ではリンダの手を握りながら休みなく声をかけてくださり、我が事のように案じてくだったのだ。
しかも。その方の行動は、まだ終わらない。
「ショックは一歩間違えれば、死に至ってしまうもの。リンダはその量が大きく、最悪も有り得た――。そう、お医者様から伺いました。なんとお礼を申し上げてよいか、分かりません」
「困った方が居たら手を伸ばす。私は当たり前のことをしただけでございます。……こちらは、私が勝手に行ったものですので。どうかお気になさらないでくださいませ」
リンダの容体が安定し、感謝を行った際だった。その人は即座にそう口にされ、心からリンダの無事を喜んでくださった。
それまでのお優しい行動。
その時の、満面の笑み。
その時の、澄みきった声音。
それらがそういった感情を生むのは、必然出来だった。
エリザベット・ニーエイル様。僕はその日恋に落ち、この方しか見えなくなってしまったのだった。
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