第9話 あら、この方は ナディーヌ視点
「え――ぁ、しっ、失礼致しましたっ! 素晴らしい場で少々お見苦しい言動を取ってしまい、申し訳ございません」
わたくし達のもとに現れた、長い銀髪を肩から流した知的な美男様。その方の特徴を認識するや、急いで手を離して腰を折り曲げた。
こちらにいらっしゃる方は、ジュスタン・ライズネルト様。この夜会の主催者である、名門ライズネルト公爵家の次期当主様なのですから。
「エリザベット様と、とても大事なお話を行っておりまして。決して、何かしらのトラブルを招く起因となるものではございません。ご安心くださいませ」
「そうなのですか? とても大事な内容には、思えませんでしたよ?」
「お言葉ですが、わたくし達にとっては――ぁ、ぁら? ライズネルト様はっ、ご存じなのですか……!?」
「実を言いますと、漏れ聞かせていただきました。約束をしていたタイミングになっても会えず、不思議に思って来てみるとその人は困った表情を浮かべていましたので。非礼と承知で、所謂盗み聞きをさせていただきました」
わたくし達が会話を始めて、全体の6割程度が過ぎた頃。その時にはすでにいらっしゃられていた、みたい……。
「ですので――。元婚約者に好意を持っていなかったと即答されて、次は格云々で悔しがっていると決めつけ、レディらしからぬ言動で迫っている。そんな現状も把握済みですよ」
「ぁ、そ、それは……。き、決めつけではなくっ、事実なのでございます……っ。エリザベット様が認められないため、ついそうしてしまっていて――」
「いいえ、違いますよ。そちらは事実ではなく、大間違いな推理ですよ」
大間違い……!?
どうしてっ! 違うのにっ! ライズネルト様が、そう断言できるんですの……!?
「認められない――そんなお顔をされていますので、細説を行いましょうか。……ナディーヌ・ミレネア様。貴方による足止めの影響でエリザベット様は会場から出られず、僕は待ち人が現れないため会場に戻ってきました。つまり僕達は、合う約束をしていたのですよ。僕の私室でね」
「ぁっ。そう、いえば……。そう、なります、わ……」
突然の登場や盗み聞きで焦っていて、頭が回っていませんでした。そのように、なりますわ……。
「どうしてお二人は――私室!? どうしてお二人はそんなところでっ、極めてプライベートな場所でお会いする約束をされていたんですの!?」
まさか……。まさか……っ。わたくしは声、体を震わせながら伺う。
そうすると――
「『どうして』なのか。その理由は、彼女は僕の婚約者だから。実は今日エンゲージリングを受け取っていただいていて、この場でサプライズで婚約を発表する予定だったからですよ」
――信じられない言葉が、返ってきたのでした………………。
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