第8話 そうしていたら エリザベット視点
「分かっていますのよ。貴方はこの婚約によって、やがてわたくしが侯爵夫人となることが。格下だったライバルが、自分を飛び越えてしまうことが悔しいんですわよね?」
ドレスを掴んでいた、ミレネア様。この方が次に仰られたのは、こういったことでした。
そっちが潰れたら、今度はこっち。違う角度を使用し始めました。
「エリザベット様は涼しい顔をしていたものの、中は真逆。対して努力はしないくせに、トップの座の死守にだけは必死になっていた。だからこそ、後ろが非常に気になっていた。結果的に並ぶことはできなかったものの、猛追してきていた者。即ちわたくしの存在を強く認識していて、心のライバルとしていたのですわ」
「みれ――」
「な・の・でぇ。上の地位を得られることが、悔しかった。悔しくて悔しくてたまらないから、どうにか自分の勝利で締めようとした。そう、ですわよねぇ?」
「そ――」
「あらあら、まあまあ。急に静かになりましたわねぇ。そちらは、事実を暗に肯定するもの――。そういった解釈でよろしいでしょうか?」
ミレネア様は怒涛の勢いで口を動かされ、またしてもニヤリとします。
この方は、声を遮っているという認識がまったくないようですね。恐らくは大きな喜びと興奮によって、違った景色が見えてしまっているのでしょう。
「エ・リ・ザ・ベ・ッ・ト・さ・ま。そろそろ正直に、白状してくだいまし。負けを認めてくださいまし」
「………………」((私がやがて格下となると知って、悔しがっている。最後の追及がそういったものになったのは、不幸中の幸いですね))
わたくしの言い分は間違っていない。絶対正解だから、認めなさい。認めなければ認めるまで問いかけ続けますわよ――。そう言いたげなお顔を眺めながら、心の中では安堵の息を吐きます。
その内容に関しては、目視できる形で、はっきりと否定をすることができるのです。
「ミレネア様。こちらの言い分は全てが、間違いではございません。そちらはもう間もなく明らかにできますので、少しばかりお待ちくださいませ」
「うふふふ。そうやって逃げるおつもりですのね? ……そうは、させませんわよぉ。負けを認めるまでは、この手は離しませんわぁ」
「……ミレネア様。そういった行動を続けられますと、さすがに物理的な手段を取らざるを得ません。決して逃げはしませんので――」
「おや? やけに遅いと思って来てみれば、不思議なことが起きていますね」
ミレネア様を説得しようとしていた、時でした。私の背後から、一つのお声がやって来ました。
ハープの音色のように美しく、安心できるこの声音は――
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