第7話 まだ負けてない ナディーヌ視点

((危なかったですわ。うっかり、エリザベットの『罠』に嵌まってしまうところでしたわ……!!))


 離れていっていたドレスを掴んだわたくしは、心の中でもニヤリとしていました。


「だから、あの有様。顔を涙まみれにして縋って、必死に『考え直してください!』『なんでもいたしますからぁぁぁぁっ!』と懇願していたよ」



「だがオレにはもう、ナディーヌがいるからな。無様に掻きついてくるエリザベットを払いのけ、その汚い面に慰謝料すべてを思い切り投げつけて、ここに来たのさ」


 あのお話は全部ウソだった。見栄を張っていたのはセヴラン様の方で、エリザベットの言い分が真実。婚約中の出来事も婚約解消中の出来事も全てが偽りで、エリザベットにダメージは一切なかった。

 わたくしが上回れたものは、なにもなかった。完敗となった。



 そう、思い込んでしまっていた。

 そう、思い込まされていたんですの。



((『私は気にしていませんよ』『水に流しますよ』『さようなら』。あれは、エリザベットの優しさ? いいえ、大間違いですわ))


 わたくし、気が付きましたの。勝てている部分が、あったことに。


((そちらは、偽りの優しさ。貴方は真っ先にソコに気付いていて、その部分を追及されないようにしてたんですのよねぇ?))


 わたくしのことは、殆ど知らない。そんな風に仰られていましたけれど、あれも嘘。だってトップを走ってる人は、後方が気になりますもの。実は『努力を重ねているスゴイ人が居る』と――自分の立場を脅かす可能性がある者が居ると知っていて、わたくしを一目置いていたのでしょう?

 ああ言ったものの密かにライバル視していて、負けるのが悔しいのでしょう?


((だ・か・ら。配慮、優しさの皮をかぶって、勝ち逃げしようとしていた))


 で・も。

 そうは、いきませんわよぉ。


 わたくし、すんでのところで気が付いたんですもの。

 確かにここまでは連敗だけれど、ラストは違う。最後に勝つのは、笑うのは、わたくしですわぁ……!!

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