第12話 関係者のその後~ドニSide~ 俯瞰視点

 突如としてリートアル侯爵家の当主親子が蒸発してから、半年後。4つ離れた国・レゲインにある辺境、そこに存在する小さな村。その中にある小さな小さな家の中からは、いつも呻き声が響いていました。


「リゼット……。リゼット……! 会いたい……! 会いたい……!!」


 その声の主は、そこの住人の片割れ・ドニ。かつて侯爵家の次期当主であり、リゼットの婚約者だった人物でした。



「よろしければ、こちらをお使いください。少しは楽になると思いますので」


「困った時は助け合う、それは当たり前のことですので。お気になさらないでください」


「ドニ様、お誕生日おめでとうございます。よろしければお受け取りください」


「ドニ様は明日から、お手伝いで隣国へと旅立たれるのですよね? ……こちら、お守りです。お気をつけて」



 あの日からも毎晩、夢の中にはリゼットが出てきていました。彼女は登場するたびに穏やかな微笑みを浮かべ、ドニを優しさで包んでくれていました。

 それにより彼の中では更に想いが増えていき、けれど――。傍にはリアムという恐ろしい婚約者がおり、近づくことはできません。


「会いたい……。会いたくて会いたくて、たまらない……。なのに、もう、会えない……」


 復縁は、不可能。そんな事実が彼の前に立ちはだかり、毎日毎日大きな後悔を発生させていたのです。


「あの頃は、婚約者だったのに……。一度は、婚約者だったのに……。あのまま何もしなければ、今頃隣にはリゼットがいたのに……」


 今隣に居るのは、髭面の小汚い男。慣れない環境に疲弊し、呆然となっている父ケビンしか居ません。


「どうして……っ、あんなことをしてしまったんだぁぁぁ……!! やり直したいぃぃぃぃぃ……!! リゼットと一緒に暮らしたぃぃぃぃぃ……!!」


 そのためドニは今夜も薄汚れた天井に向かって叫び、当然、やり直せるはずはありません。


 自ら関係を絶ち、その関係を戻そうとした。


 それによって彼の、約束されていた幸せは全てが姿を消してしまいました。

 愚かで身勝手な男、ドニ。こうして彼の人生は一変することとなり、以後は自身の判断をいつまでも悔やみ続けることとなったのでした――。


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