第8話 7か月の間に起きていたこと 俯瞰視点(2)
((リゼット様は……。優しく、綺麗な心を持つ人だな))
リアムの心の中で生まれた、好意という名の『芽』。初対面にもかかわらずそれが発生した理由は、リゼットの返事にありました。
「シルヴィ様にお会いして、2つの謝罪を行いたい。それが今の私の、一番の願いです」
なにか望むことはありませんか?――。なんでも仰ってください――。
それに対して出た答えが、これでした。
「ふたつの、謝罪ですか? それはどういった……?」
「1つは、お気遣いをいただいたことによるお詫び。もう一つは、気に病まれる可能性が頭になかったことへのお詫びでございます」
ドニ様が去られた後シルヴィ様とのやり取りを思い出し、ドニ様の恋は失敗すると確信しました。努力は無駄になってしまうと、つい嗤ってしまいました――。
……あの時の私は頭から、シルヴィ様にかかる迷惑などが抜け落ちていたのです――。
親切にしてくださった方への配慮を忘れ、おもわず喜んでしまった。それを許せず、お顔を見て直接謝罪を行いたいのです――。
リゼットはそのように、本心で即答しました。
ドニへの復讐などを出せる状況で、真っ先に気遣ったこと。それがリアムの心を、震わせたのでした。
「…………分かりました。貴方様の希望は、わたしが責任をもって叶えましょう」
そこでリアムはすぐさま当主夫妻に話をつけ、すでに午後5時を回っていたため翌朝出発。そうして2人を乗せた馬車は隣国ベーリルへと進み始め、それは長時間を要する移動となります。
「リアム様は、この国は初めてなのですよね? よろしければ、景色の紹介などをさせていただいてもよろしいでしょうか?」
そのためリゼットはお礼を兼ねて説明を行ったり、
「私の為に、ありがとう。よかったら、お水とニンジンをどうぞ」
「……リゼット様は、馬の扱いになれていますね。もしかしてそちらは、日常的なものなのでしょうか?」
「はい。お嬢様は、あのような方ですので。御者だけではなく馬にも、休憩時には労われるのですよ」
同行している侍女から、そんな話を聞いたり。
移動中にも様々な『心を揺らす』出来事があり、リアムの中に生まれた『芽』はスクスクと成長してゆきました。その結果全3日の日程を終えてテリエール邸に戻ってくる頃には、恋の花が開き始めていて――
「リゼット様。よろしければまた、今度はこういった話抜きで、会ってはいただけませんか?」
別れ際にリアムはそのような言葉を投げかけ、言葉を投げかけられたリゼットも同じように、3日間傍でリアムを見続けていました。リアムの中にある、『誠実さ』『優しさ』を理解していました。
ですので、それもまた、当然でした。
「はい。是非、お願い致します。楽しみにしております」
リゼットは破顔で頷きを返し、こうして2人の関係が幕を開けたのでした――。
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