第6話 あれから7か月後~ある夜の、いつもとは違う夢~ ドニ視点(1)

 あの日――忌々しいコンクールがあった日から、毎日見るようになった夢がある。

 それは、決まって同じ内容。まずは控え室にいる愛する人を訪ね、タキシードで身を固めた俺は流麗に愛の告白を行う。そして、


「新進気鋭のピアノ奏者、ルーフェ侯爵家のラファエル様。わたしはその方を、愛していますの」


 愛する人の口から予期せぬことが飛び出し、


「『あんな男なんかより』。好きな人を貶されて、不快にならない人はいませんのよ?」


 やがては、怖い顔になってしまう。そして、そして…………。


「取り込み中だからこそだ。失礼させてもらうよ」


 腹が立つ男が現れ、


「お待たせしました。大事なお話は、馬車の中で伺いますね」

「ご迷惑をおかけいたしました。……ありがとうございます、ラファエル様」


 シルヴィは幸せそうな顔をして、そんなラファエルと共に去って行く……。

 そんな『悪夢』が毎晩やって来て、俺を更に絶望のどん底へと叩き落としていた。もう見たくはないのに、何をやっても必ず出てきて……。

 そのせいもあって、俺は生きる気力を失くしていた。


((ああ、もう嫌だ……。こんな夢、もう見たくない……))



「新進気鋭のピアノ奏者、ルーフェ侯爵家のラファエル様。わたしはその方を、愛していますの」



 その日もやはり、そうだった。

 どんなに嘆いても頬をピンク色に染めたシルヴィが出てきて、地獄のような時間が始まって――だが。その日は、違うこともあった。


「お待たせしました。大事なお話は、馬車の中で伺いますね」

「ご迷惑をおかけいたしました。……ありがとうございます、ラファエル様」


 最も苦痛を伴う、最後の場面。そこが終わって、いつものように俺が控え室で崩れ落ちた直後のことだった――


「よろしければ、こちらをお使いください。少しは楽になると思いますので」


 突然、懐かしい光景が蘇ってきたのだった。

 それは、今から1年と10か月前。リゼットと出会った夜の出来事で――

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