第6話 あれから7か月後~ある夜の、いつもとは違う夢~ ドニ視点(2)
「よろしければ、こちらをお使いください。少しは楽になると思いますので」
俺とリゼットが初めてしっかりと会話をしたのは、とある夜会の最中だった。
その日俺は体調不良を押して出席していて、少しばかり熱があった。それをリゼットは――リゼットだけは見抜き、わざわざハンカチを冷やして持って来てくれたのだった。
「え、あ、ああ、ありがとう、感謝するよ。今夜は、私的な理由でどうしても参加しないといけなくてね。助かったよ」
「困った時は助け合う、それは当たり前のことですので。お気になさらないでください」
俺の不調に気付いてくれたこと――。
俺のため冷却道具を用意してくれたこと――。
そんな、他意のない純粋な微笑みを見たこと――。
それによって俺はあっという間に恋に落ち、夜会が終わる頃には頭の中が『リゼット・テリエール』で満たされてしまった。そのためすぐさまアプローチを始め、必死の努力の甲斐あって両想いとなれた。
俺達の交際はその後も順調に進み、やがては恋人から婚約者にステップアップすることもできたのだった。
((……そういえば……。そんなことも、あったな……))
独りでに頭の中で蘇ってきた、リゼットと過ごしてきた日々。それを眺めていると懐かしさがこみ上げてきて、だから、だったのだろう。
「ドニ様、お誕生日おめでとうございます。よろしければお受け取りください」
手編みのマフラーをプレゼントされた思い出。
「ドニ様は明日から、お手伝いで隣国へと旅立たれるのですよね? こちら、お守りです。お気をつけて」
出発の前夜わざわざやって来て、手作りのお守りを手渡された思い出。などなど。
リゼットにまつわる出来事が更に蘇ってきて、気が付けば――
((これは……。涙……?))
俺の両頬を水がつたっていて、胸の中ではとある想いが生まれていた。
温かくて、どんどんと大きくなってゆくもの。それは以前も感じたことのある、
リゼットへの想い。
どうしてこんな人を捨ててしまったんだ!? この人こそが一番だろう!?
シルヴィなんかよりも、ずっと素晴らしい女性なのに!! お前は何をやっているんだ!?
愛の復活と同時にそんなものが押し寄せ、
今ならまだ間に合うぞ!! お詫びを持ち誠心誠意謝れば、お前ならやり直せる!!
お前が真に愛するべきは! 幸せにするべきは、リゼットだ!! リゼットを幸せにすることで罪を償うんだ!!
俺の心が俺を奮起させ――。そうなるのは必然的だった。
目を覚ました俺は、ベッドから飛び降りて――
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