第5話 ………… ドニ&俯瞰視点(4)
「残念ながら貴方は、会話で諦めてくれる人ではありません。そこで力によって、諦めていただきます」
大きな怒りだけが宿るようになってしまった、その直後……。ラファエル様はパチンと指を鳴らし、そうすれば――! 大柄の男が3人控え室に入ってきて、俺はあっという間に取り囲まれてしまった。
「ドニ・リートアル。貴方はこれから、2つの未来へと進むことができます」
「ふたつの、みらい……。そ、それは、いったい……?」
「1つ目。それは、『諦めないと宣言し、絶望によって屈服させられる』未来。侯爵家の力によって心身に大きなダメージを受け、シルヴィ様に近づく気力と体力がなくなってしまう――。そんな『その後』ですよ」
「……しん、しんに……。だめーじ……」
「2つ目。それは、『諦めると宣言し、平穏に暮らす』未来。シルヴィ様に金輪際近づかないと誓うのであれば、僕は何もしません。心にも体にも何事もなく毎日を過ごせる――そんな『その後』ですよ」
2つ立っていた右手の指が順番に折られ、説明が終わるとその手が俺へと向けられた。
「さあ、回答の時間です。ドニ・リートアル。貴方はどちらの未来へと進みますか?」
「……………………」
「回答時間は、残り10秒です。さあ、答えてください」
10、9、8、7、6、5、4、3、2、1。容赦なく、カウントダウンが進んでいって――
「ふ、2つ目!! 2つ目の未来を、選びます!! 選ばせていただきます!!」
0になる直前、俺は返事を行った。
だ、だって……っ。相手は侯爵家なんだ!! 相手の臣下に囲まれてしまっているんだ!! 1つ目を選べるはずが、ない……。
「……すでに嫌いとなった相手でも、幼馴染の悲惨な噂を聞くのは辛いこと。乱暴な手段を使わずに済んだのは、不幸中の幸いでした」
「ち、ちがう!! それこそが不幸――な、なんでもございません……。も、申し訳ございませんでした……」
それこそが不幸だ! 俺こそが1番の相手なんだ!! そう叫ぼうとする感情は、鋭い睨みによって消えてしまう……。
もう……。俺は……。なにもできず…………。
「分かっていただければ、それでいいのですよ。では、僕は失礼致します。二度と、そのお顔を見せないでくださいね」
「しょ、承知いたしました……」
そう、頷くことしかできず……。
俺は……。俺は…………。控え室を出ていく、ラファエル様の姿を……。
「お待たせしました。大事なお話は、馬車の中で伺いますね」
「ご迷惑をおかけしました。……ありがとうございます、ラファエル様」
幸せそうにしているシルヴィの姿を……。ただただ、見つめることしかできなかったのだった…………。
〇〇
そうしてドニは抜け殻のようになって帰国し、その後7か月間ショックで寝込むことになりました。
そして――とある理由で彼は立ち直り、あまりにも自己中心的な行動を始めてしまうのでした――。
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