第3話 俺の、俺達の、大切な日~likeがloveに変わったから~ ドニ視点(1)

「おめでとうシルヴィ。素晴らしい音色だったよ」


 コンクール終了後――見事でソロでは優秀賞、連弾部門では最優秀賞を受賞したあとのこと。約束していたタイミングで彼女の控室を訪れ、まずは祝福の花束を贈った。


「ありがとうございます、ドニ。目標が達成できましたし、個人的な課題も見つかりましたし。充実した時間となりましたわ」

「すでに立派な成績を残しているのに、満足しない。さすがシルヴィだ」


 このコンクールのソロ部門での優秀賞は、我が国初の快挙。連弾での最優秀賞も――……。いや、これはどうでもいいな。

 連弾は2人で1台のピアノを演奏するもので、シルヴィの隣には男が居た。息ピッタリで演奏する姿を思い出したら腹が立ってきたから、その記憶を脳内から抹消した。


「? ドニ? 難しい顔をして、どうしたんですの?」

「なんでもないよ。じゃあ早速だけど、一昨日の続きを始めるね」


 あの男は演奏のパートナーなだけだ――。これから俺は、人生のパートナーになるんだ――。気にするな――。

 こう言い聞かせて苛立ちも消し、コホンと咳払いをする。そうして俺は気持ちを整え、真摯な目をシルヴィへと注いだ。


「まず、君に報告がある。リゼット・テリエールとの婚約は、3日前に解消した」

「かっ、解消!? リゼット様を、あんなにも愛していたのに……。どうして!? なにがありましたの!?」

「…………それは、真実の愛に気付いたから。本当に好きなのは誰なのか? その答えが分かったからリゼットに説明をし、同意の上で白紙にしたのさ」


 シルヴィは曲がったことが嫌いな人であり、リゼットを気に入っていた。そのため仕込んでおいた説明をして、不満を生まないようにした。


「有難いことに、リゼットは新たな恋を応援をしてくれてね。俺は彼女の声援も受けて、今日ここにやって来たんだよ」

「ここに……。もしかして、ドニ……。貴方は……」

「ああ、そうさ。俺が今この世で最も愛しているのは、シルヴィ・リテッレ。君です」


 ここで流れるように片膝をつき、しっかりと美しい顔を見上げる。


「5日前――君にプロポーズの報告をした時、半年ぶりに会った時だった。……『久しぶり』が、シルヴィは青空だと教えてくれたんだよ」


 幼い頃からずっと近くに居て、距離が近かったから全く気が付かなかった。こんなにも綺麗で、こんなにも心が澄んでいたことに。


「ソレに気付いてからはもう、シルヴィしか見えなくなっていてね。だから俺は、こんな気持ちになっているんだ」


 ここで懐へと手を入れ、リングを――1・5カラットのダイヤを使用した、エンゲージリングとなるものを取り出す。そして、


「僕にとって君はミューズで、生涯を共にしたいと強く願う人。ですのでどうか、結婚を前提として交際をしてください」


 この人のために用意したリングを真っすぐ差し出し、ブルーの瞳を見つめて返事を待つ。


((自分で言うのもなんだけれど――。俺は容姿端麗頭脳明晰、内外共に一流の人間だ))


 シルヴィと俺は十三年の付き合いで、彼女はドニ・リートアルの全てを知っている。ならこうして好意を知れば、シルヴィもきっと――


「ごめんなさい。ドニの気持ちには応えられませんわ」


 ――え……?

 え…………?

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