第2話 幼馴染への約束~美しい君へ~ ドニ視点

「シルヴィ。明後日は、君の晴れ舞台を観に行くよ」


 リゼットと決別をしてから、およそ5時間後。俺はリテッレ伯爵邸を訪れ、最愛の人に白い歯を零していた。


「き、君? それに、明後日は行かないと言っていましたよね? 突然やって来たと思ったら……どうしたんですの?」


 今まで俺は彼女のことを『お前』と呼んでいて、コンクールは開催地が遠いから赴くつもりはなかった。

 うんうん。随分と違うことになっていて、戸惑うのも無理はない。だから、説明しておこう。


「……シルヴィ。空を見上げてごらん。綺麗な青空が広がっているだろう?」

「え? え、ええ。広がっていますわね」

「澄みきった青はこんなにも綺麗なのに、俺たちは平然とその下に居る。それと同じなのさ。……当たり前にあるが故に、その美しさを認識できなくなってしまう。そんな状態から俺は抜け出し、ようやく『真』なるものに気が付いたのさ」

「そ、そうですの。? ?? それと……呼び方とコンクールの件が、どう関係していますの……?」


 彼女は品あるツリ目をパチパチと瞬かせ、首をこくりと傾ける。

 その姿は絵画として永久に保存しておきたい程に美しく、おもわず見惚れてしまう――が、いつまでもそうしてはいられない。シルヴィは明後日が本番なため、すぐレッスンに戻らなければならないからな。凝視したい気持ちを抑え、再び口を動かすことにした。


「……こんな話は、急いでするものではない。ゆっくりと、おめでたい日にするべきだ」

「ど、ドニ……? 貴方は何を言っていますの……?」

「今は、分からなくていいさ。……だからね、シルヴィ。2日後、コンクールが終わったら――君が最優秀賞を受賞したあと、その直後に時間を欲しい。その時にこの話の続きをしたいのだけれど、構わないかな?」

「え……。そのあとには、予定が入っていて――」

「どうしても、必要なものなんだ。この通りだっ。君の時間を俺に割いて欲しい!」


 胸元に手を当て、頭を深く下げる。この国では真剣なお願いをする際に用いる動作を行い、そうすれば――流石は俺が愛する人だ。シルヴィは頷きを返してくれた。


「分かりましたわ。時間を空けておくので、終了後控え室に来てください」

「恩に着るよシルヴィ。じゃあ今日のところは、これで帰るよ。レッスン頑張って。俺は陰から応援しているよ」


 俺は彼女の両手を握って感謝を示し、爽やかなウィンクを残してこの場を去る。そうしたあとは、大急ぎで明後日の――プロポーズのための準備を始める。

 エンゲージリングを購入したりパーティーのセッティングをしたり。それから俺は休みなく動き続け、ついにその日がやって来たのだった。


((シルヴィ。今日は2つ嬉しいことがある日だよ? 一つは最優秀賞の受賞で、もう一つは――))

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