第1話 夜会で~1か月前の出来事~ リゼット視点
「お久しぶりですわ、リゼット様。ドニから全然連絡がないということは、彼はすっかり夢中になっているみたいですね」
シルヴィ・リテッレ様。この方は上品さと気さくさを兼ね備えた、格下にもお優しい令嬢然とされた方。
そのためその日もご挨拶を行ったら、我が事のように微笑んでくださった。
「はい。よくしていただいております」
「それはよかったですわ。『もしもリゼット様を困らせていたら、怒らないと』と思っていましたが、余計な口を挟む必要はなさそうですわね」
私達はこれまでご縁がなく、シルヴィ様とプライベートなお話をするようになったのは交際の報告後から――まだ、5か月前後の関係だった。にもかかわらず親しくしてくださり、今回も『何かあったらいつでも協力する』と笑顔で仰ってくださった。
「子爵家から伯爵家には、言いづらいこともあると思いますから。もし何かありましたら、遠慮なく頼ってくださいね」
「シルヴィ様……。いつもご配慮、痛み入ります」
「ふふっ。わたしが好きでやっていることですから、お気になさらないでください。もっともその様子ですと、口を出す時はこの先もやってこな――ぁ、あら?」
「っ、シルヴィ様っ!? 大丈夫ですかっ!?」
くすりと微笑まれていたら突然バランスを崩され、このままだと倒れてしまいそうだった。そのため私は慌てて腕を伸ばし、転んでしまわないように背中を押さえた。
「ごめんなさい、少し眩暈がしてしまいました。……先にわたしが、助けられてしまいましたね」
「それこそ、お気になさらないでください。シルヴィ様、あちらでお休みになられてはいかがですか?」
「いえ、平気ですよ。最近根を詰めてレッスンをしていて、その疲れが少し出てしまっただけですので」
「……レッスン。そちらはもしかして、ピアノのコンクールのためですか?」
シルヴィ様は、ピアノ奏者としても有名な方。そこでそう質問すると、品の良い頷きが返ってきた。
そして――
「ええ。1か月後に、『ソレイユ』――大きなコンクールが隣国であって、連弾部門で大賞をいただくべく練習に励んでいますの。……あの方と、約束をしましたので」
――シルヴィ様は、頬をピンク色に染められたのだった。
そのお顔は当時の私そっくりで、恋をしているお顔だった。
だからすでに、意中の方がいらっしゃる。だとしたら、ドニ様は――
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