ビッチな妹が好きな婚約者が婚約破棄してきたので、卒業パーティーで二人が喘いでいる音声を流してやりました。

無名 -ムメイ-

ビッチな妹が好きな婚約者が婚約破棄してきたので、卒業パーティーで二人が喘いでいる音声を流してやりました

 今日はアイリーン貴族学園の卒業記念パーティーの日。


 私――ノルン・フィーベルも、もちろん参加している。この学園の生徒――ううん、卒業生なのだから。


 でも、なぜだか私は卒業生の保護者を案内していた。本当になんでだろう? 


 別に私、保護者案内の係じゃないんだけどなぁ……

 まあ、いいんだけどね。


 私、あまり人の多いところは好きじゃないから。それは多分、私の家系が関係している。


 フィーベル家は『音』に精通していて、その影響からか五感の中でも聴覚が特に優れているのだ。

 だから、人が多いところだと賑やかすぎて、すぐに気分が悪くなってしまうの。


 とはいえ、私もそろそろパーティー会場に顔を出した方がいいわよね。一応、主役の1人だもの。

 別に1人欠けていても何かが変わるわけでもないけれど、卒業パーティーは人生で一度しか味わえないからね。

 

 しかし、なかなか一息つけず、保護者の案内を続けていたときのことだった。


 学園全体に口調の強い男の声が響き渡る。



『ノルン! 今すぐパーティー会場に来い! いいな、今すぐにだ。俺を待たせるなよ!』


 この声は……ユリウスね。


 ――ユリウス・フォン・アイリーン。


 アイリーン王国の第一王子にして、私の婚約者。こう見えて、地位は結構高いんだから。


 まあ、私は何もしていないから威張れないんだけど。

 全部、お父さまやおじいさま――私のご先祖様が頑張ってきた結果だもの。


 でも、私の家族には汚点と呼ぶべき妹がいる。その名をマリアといい、とにかくビッチなのだ。

 今まで何人の男と関係を持ったことがあるのか……姉である私でも把握しきれていない。


 だからこそ、今回も発見が遅れた。


 さっきのユリウスの声。多分、フィーベル家に伝わる音魔法を使って拡声したのね。


 やっぱり、ユリウスの近くにマリアがいるみたい。


 ……はぁ。嫌な予感がする。


「ここ、任せてもいい?」

「あ、はい! 手伝ってもらってすみません!」

「いいのよ。じゃあね」


 本来の保護者案内の係である下級生にひと声かけて、パーティー会場に向かう。


 何も起こらないことを祈るばかりだわ……




「うぅ……。やっぱり会場が近くなると、気分が悪くなってしまうわね」


 本当、この体質をどうにかしないといけないなぁ。

 卒業しても、貴族であるがゆえにいろいろなパーティーに出席しないといけないし……


 お父さまとお母さまは無理をしなくてもいいと言ってくれているけれど、私はフィーベル家の長女。

 いつまでも甘えてはいられないのだ。


 だから、この人混みにも慣れていかないと……


 そう思った矢先、私は人の波に流されることになった。

 

 そのせいで、パーティー会場のある方向とはまったく別の方向に進んでしまったりして、大変だったよ……

 目的地にはなかなか辿り着けないし、気分はドンドン悪くなっていくし……本当にいいことがない。


 だけど、しばらく流れるままに流されて……ようやくパーティー会場の中に入ることができた。


 ユリウスは一体、どこにいるのかしら。後、マリアも。

 私の予想では、大方どこかでイチャイチャしていると思うんだけど……


 せめて、人前でそういうことをしていないことを祈るばかりね。


 一応、まだ私が婚約者ということになっているから。


 別に私は婚約を破棄されてもいいので、どうか人目につくどころでイチャイチャしていませんように! 


 お願いします……!


 そう内心で信じてもいない神様にお祈りしながら、辺りをキョロキョロと見回した。


 すると、


「遅かったな、ノルン。俺を待たせるなと言ったはずだが?」


 先に見つけたらしいユリウスが嫌味ったらしいことを言ってきた。


 これでも王子なのかしら。人の上に立つ者、もう少し懐が広くてもいいと思うのだけど。


 って――


「――げぇ」


 思わず私の口から下品な音が漏れた。恐らく、今の私はとてもブサイクな顔をしているわ。


 だって、ユリウスの隣にはマリアがいて、腕を組んでいる……というか、胸を押しつけている?


 そのせいで、周りの視線が私たちに集まっている。


 それもそのはずだ。


 私とユリウスの婚約は学園中に広まっている。

 だから、いま目の前で起きている光景は、誰の目にもおかしく見えてしまうのだ。


 まったく、この人たちは何がしたいのかしら……

 

 そう思っていると、


「来い、ノルン。俺からお前に言いたいことがある」


 マリアを引き連れて歩くユリウスが、婚約者である私の前を通り過ぎていく。

 どうやら、ユリウスたちが向かっているのは壇上らしい。


 そこはパーティー会場で1番目立つ場所だ。

 そこで一体、何をするつもりだろう?


 私もユリウスの後ろをついて行って、壇上へと上がる。


 うわぁ、みんなこっちを見てるよ。卒業生とその保護者、在校生を合わせると、軽く100人は超えている。


 その視線が私たちに釘付けで、なんか顔が火照っていくのを感じた。


 多分、恥ずかしいのだ。堂々としていなければならない貴族としては、いかがなものかと思うけれど。


 私はパーティーへの参加が、ほかの令嬢・令息よりも圧倒的に少ないから、緊張が凄いのだ。


 だから、頭が真っ白になってしまいそう……


 そんな私にユリウスはこう告げた。


「ユリウス・フォン・アイリーンはノルン・フィーベルとの婚約を破棄し、新たにノルンの妹――マリア・フィーベルと婚約を結ぶ!」

「は?」


 思わず、令嬢らしくない声が口から漏れてしまった。

 それぐらい私は度肝を抜かれたのだ。


 というか……


 どうして卒業パーティーという記念の場で、婚約破棄を宣言するかな! しかも、結び直す相手が妹!?


 これは一体、何ですか? ドッキリかな?


 ただでさえ緊張感で頭が真っ白だったのに、何も考えられなくなりそうです。


「は? とは何だ。それが貴様の本性ということか!」

「ち、違います! 少し驚いてしまっただけです!」

「嘘をつくな! 見苦しい! どうせさっきまで男と一体にいたんだろう!」

「どうして、そういう発想になるんですか! 私がこういう場が苦手なのを知っているでしょう!」

「ハッ、どうだかな」


 何でしょう、この態度。


 これが一国を背負うかもしれない男の態度なのですか?


 とてもじゃないですが、信じられませんね。


 頭がおかしくなってしまったのでしょうか?

 それとも、初めからおかしかったのですか?


 このような場で婚約を破棄するなどありえない。


 それも、私の評判を下げるような嘘を……


 しかし、それだけで終わるはずもなかった。


 ユリウスが微かに口端を歪め、声高々にありもしないことを話し始めたのだ。


「皆は知らないかもしれないが、ここにいるノルン・フィーベルという女は売女で卑しい奴なのだ! そうなのだろう? マリアよ」

「……はい、ユリウス様。私の姉はユリウス様という婚約者がいるにも関わらず、複数の男と関係を持っていました。……それだけではありません。パーティーには体調不良などを理由に欠席していましたが、本当は家に連れ込んだ男と乱交に及んでいたのです……! うぅ……」

「…………」


 開いた口が塞がらないとはこのことか。


 私の口はあんぐりと開いていて、閉じようにも閉じれないでいる。


 それにしてもマリアは一体、何を言っているのかしら? たしかに私はパーティーを欠席しがちです。

 でも、それはお父さまにもお母さまにも許可を取っていて、無断ではありません。


 それに複数の男と関係を持っていたのは……


 そして、乱交に及んでいたのは――


 ――全部、マリアの方です!


 しかし、


「最低だな! 俺もおかしいと思っていた!」

「妹が可哀想だと思わないのか!」

「そうだ! そうだ! 泣いてるじゃないか!」

「人の心はないのか!」


 マリアの嘘を真に受けてしまった男子生徒がみな、私に向かって野次を飛ばす。


 でも、女子生徒で声を上げる人は1人としていなかった。マリアの言うことが、嘘だと分かっているからだ。


 ならなぜ、男子生徒だけが声を上げるのか。


 マリアが音魔法を使って、マインドをコントロールしているからだ。


 つまりは誘惑。魅了とも言いましょうか。


 信憑性のない言葉でも、異性にはそれが真実のように映ってしまう。


 まったく、厄介な魔法を編み出したものです。


 私はマリアの方に視線を向けると、下手な泣き真似をしている妹がいた。


 だが、その表情は醜く歪んでいる。


「残念だったな、ノルン。上手く隠していたようだが、マリアが涙ながらに話してくれたよ」

「…………」

「何か言い訳があるなら聞いてやるが?」


 ユリウスが勝ち誇った顔で私を見てくる。


 ……なるほど?


 ここへ呼んだのは婚約を破棄した挙句、私の評判を下げて、絶望させたかったからか。


 本当に下衆で汚い手を使いますね。


「堕ちたな、ノルン」


 そう言って、気持ちの悪い笑みを浮かべた後、再び卒業生やその保護者たちの方へ体を向けるユリウス。


 そして――


「――聞いてほしい! 俺はノルンの元・婚約者として、処罰を下さなければならない! ゆえにここで、アイリーン貴族学園の卒業資格の剥奪を宣言する!」

「宣言するな!」


 思わず声を上げてしまいました。


 でも、本当に困るのです。


 私にとって、卒業資格というのは命の次に大事な物。

 それを剥奪されてしまっては、学園に通っていた意味が無くなってしまいます。


 私は卒業資格を得るためだけに、アイリーン学園に通っていたのですから。


 もちろん、学友ができたのはいい経験でしたけれど……


「王子である俺に『宣言するな』とは何だ! 温情で卒業資格の剥奪で事を済ませてあげようとしているのだぞ!」

「そうですよ……。だから、もうやめましょう? お姉さま。罪を認めれば、卒業資格の剥奪で済みます」


 ……何です、それ?


 流石の私でも堪忍袋の緒が切れそうです。


 なぜ、私が悪者になっているのですか?

 なぜ、私が諭されているのですか?

 なぜ、私はこんなにも馬鹿にされているのですか?


 意味が分かりません。理解不能です。


 ですが、もっと意味が分からないのが、


「卒業資格剥奪じゃ生温い! 即刻、死刑にすべきだ!」

「マリアを泣かせた罪は大きい!」

「その報いを潔く受けろ! この、メス豚が!」


 なぜ、野次がエスカレートしているのでしょうか?


 それが腹立たしくて仕方がない。今にも黙らせてしまいたいぐらい……私は怒っている。


 だが、その怒りの矛先はマリアだ。


 声を上げている男子生徒は、マリアに騙されている愚か者――こほんっ、被害者ですから……


 一発、ぶん殴ってやりたいところですが……


「みんな、聞いて! お姉さまをこれ以上、悪く言うのはやめてほしいの……」

「あぁ?」


 おっと、またまた令嬢らしからぬ声が出てしまいました。


 かなりドスの効いた良い声だったに違いありません。


 というのも私、激おこプンプン丸です。

 可愛い表現をしていますが、ガチギレしています。


 何が、『お姉さまをこれ以上、悪く言うのはやめてほしいの……』ですか。


 芝居が下手すぎて、反吐が出ますわ。

 大根役者でももう少しいい演技をしてくれますわよ?


 というのは置いておくとして……


「……私が反論しないからと言いたい放題してくれましたね? もう許してあげません。怒ったら怖いことを思い出させてあげますわ。ねぇ? ユリウス? マリア?」


 私は親指と中指を弾いて、パチンッと音を鳴らした。


 その瞬間、先ほどまで野次を飛ばしていた哀れな男子生徒が正気を取り戻していく。


 ――のも束の間、再び音魔法で魅了しようする性格クソ女のマリア。


 しかし、今回は不発に終わった。

 私が魔法の効果を同じく音魔法で打ち消したのだ。


「お姉さま、一体なにをしましたの……?」

「あら? マリアは気づいたの? そこのお馬鹿さんは何も気づいてないみたいだけど」

「それは誰のことを言っている! 俺はアイリーン王国の王子だぞ!」

「あなた以外に誰がいますの? もう少し自分を客観的に見ることを覚えた方がいいですよ?」


 あら、私ったらとても優しい! マリアと同じくゴミのユリウスにアドバイスしてあげるなんて!

 

 まあ、今さらその腐った性根を叩き直せるわけないですが。


「マリア。あなたの魅了は無効化されています。その意味が分かりますよね?」

「無効化だと!? そんなことできるわけが!」

「できますよ? あなたたちの言う『複数の男と乱交していた時間』を魔法開発に使っていた私ならね?」

「何!?」


 まったく、何を驚いているのでしょうか。


 私、この魔法のことはユリウスに話していたような気がするのですが……


 ……頭が弱いから忘れていたのでしょうか? 


 それしても面白いわね。マリアったら青白い顔をしちゃって。


 ユリウスみたいに何も考えられないアホならよかったのに、なまじ頭がいいから……


 これから私に何をされるのか察したのでしょう。


「さあ、マリア? ユリウス? フィーベル家の次期当主である私を侮辱するということは、フィーベル家に多額の投資をしているアイリーン王家にも泥を塗る行為。あなたたちの方こそ報いを受けてもらいますよ」


 私はユリウスとマリアに1歩近づいた。


 マリアはそれに対して後退る。

 どうやら、私が怖いみたいですね。


 しかし、ユリウスは――


「――フィーベル家の次期当主!? 貴様が当主になるというのか!?」


 なぜだか驚いていた。


 あら? このこと、言っていませんでしたっけ?

 ……う~ん。言ってなかったみたいです。


 当主になるのはほぼ確定的なのですが……


 もしかしたら、教えるのが癪だったのかもしれません。

 そのときにはすでに、ユリウスのことが嫌いだったのでしょう。


 こうしてユリウスから婚約を破棄されなかったら、こっちから婚約を破棄する気でしたし。


「当主にはマリアがなるんじゃないのか!?」

「はい? そんなはずないじゃないですか。遊び回っているだけのマリアが当主になれるわけないでしょう? マリアも何しょうもない嘘をついているのです?」

「…………」

「あら、黙っちゃって。いつもこうやって大人しくしていればよかったのに……」


 ……まったく、徐々に徐々に顔を青ざめさせていきたかったですのに。


 ざまぁのやりがいがありませんわね。


 でも、ここまで来てしまいましたし、中途半端で終わらせるのも違いますよね。


 まだ二人に対する怒りも治まっていませんし。


 さらなる地獄へ叩き落としてさしあげますわ。


「これは一体どういうことだ! 俺を騙していたのか、マリア!」

「……ひぃっ」

「ちゃんと説明しろ! これはどういうことなんだ!」

「ご、ごめんなさい……っ」


 ……はぁ。みっともないわね。


 鬼の形相で凄む王子と泣いて謝る婚約者……ですか。

 DVの現場か何かでしょうか、これは。


 まったく面白くないですけど。


 だって私、当事者のはずなのに、仲間はずれにされてますもの。


「私も仲間に入れてくださいまし」

「黙れ! 俺は大事なことを聞いているんだ! 見て分からないのか!」

「分かっていますよ。ですが、この際ハッキリ言わせてもらいますけど、マリアが次期当主かどうかなど、あなたには関係ありませんよね?」

「関係がないわけがないだろう! フィーベル家の次期当主と婚約すれば、俺が次期国王に選ばれる可能性が上がるんだぞ! だから――」

「――関係ないですよ? だって、あなたは王位継承権を失ってしまいますもの」


 もちろん、私の手でね。


 最悪、王家から勘当もありえるかもしれません。


 でも、そっちの方がいいですよね? 


 私にとってはもちろんですが、アイリーン王国に住まう人たちにとっても。


 ユリウスみたいなカスが国王になるなんて、誰がどう見ても嫌ですものね。


「ハッ! 何を言ってんだか」

「本当ですよ? 本当はお父さまとお母さま、そしてあなたなご両親だけに聞かせるつもりだったのですが……まあ、いいです」


 私は無くさないように持ち歩いている小石のような物を懐から取り出した。

 これは魔封石と言って、魔法を封じ込めることができる代物。


 これには私の音魔法が封印されている。


「マリア、こちらに来なさい」

「お姉さま、一体なにを……」

「もし、この石に封印されている音魔法を耐え切れたら、許してあげないこともないですわよ?」


 マリアに魔封石を手渡した。


 魔封石の使い方は簡単で、自分の魔力を流し込むだけ。

 流石のマリアでもそれぐらいは分かるはず。


「本当、ですか?」

「えぇ」


 嘘だけどね、ばぁか!


 その瞬間、パーティー会場に男女の声が響き始める。


『――へぇ。ここがサイラスの書斎か』

『ええ……そうですわ。ここが……って、あぁんっ……、……んっ。ダメです、こんな……っ、ところで……っ、んっ……』

『そんなこと言って、もうグショグショじゃねぇか。期待してたんだろ?』

『……っ、はぁ……っ、そんなこと、ないですわぁ……っ』


 ――あら? 音が途切れてしまいましたわ。


 マリアが魔力の供給をやめたようね。

 

 まあ、そうしたい気持ちも分かります。

 自分の喘ぎをみんなに聞かれてるものね。


 こんなの今までに味わったことがない屈辱のはずだもの……


 でも、これで許してあげるわけないでしょう?


「どうしました? 許してほしくないの?」

「お姉さま……っ、どういうつもり?」

「……どういうつもりって、何が? 不都合なことでもあるのかしら? さっきの声、あなたたちなんてことはないのでしょう?」

「それは……」

「私、確認してほしいだけなんですよ。この声の持ち主が誰なのか」


 まあ、すでに知っていますが。

 何回も確認しましたので。


 もし、間違っていたら不敬罪で死刑にされかねないですし、それはもう念入りに……ね。


「どうするの? もう、音声聞きたくない?」

「…………」

「まだあなたたちだと決まったわけじゃないんですよ? 名前がまだ出ていませんし」

「……で、でもっ……」

「はぁ。話になりませんね。それなら、返してください」


 せっかく1番近いところで、自分の喘ぎ声を聞かせてあげようと思ったのに。


 私の優しさを無下にするなんて……妹失格ね。

 妹だなんて一度たりとも思ったことありませんが。


 それよりも――


「――マリア! 壊せ! 貴様が次期当主じゃなくてももういい! 俺と結婚したいなら、壊せ!」

「ユリウス……様?」

「早く壊せと言っている! 聞こえないのか!」


 あらあら、ユリウスったら。そんなに慌てちゃって、どうしたのかしら。


 まだあなたたちと決まったわけじゃないのに。


 でも、その焦りよう、あの声の主が自分たちだと教えているようなもの……


 馬鹿なのかしらね、やっぱり。


「マリア、返しなさい」

「……っ」

「壊せ! マリア!」

「…………ッ!」


 ……本当にどうしようもないのね、あなたは。


 その瞬間、魔封石は砕け散った。

 マリアが床に叩きつけたのだ。


 これがあなたの選択なのね、マリア。

 もうあなたに慈悲を与えない。徹底的に潰して差し上げます。


「よくやった、マリア!」

「はい、ユリウス様ぁ!」


 ユリウスの下へと走るマリア。


 そんな救えない2人を横目に、私は予備の魔封石を取り出した。


 すると、2人の顔が見る見る青ざめていく。


「魔封石が1つなはずないでしょう?」

「そんな、馬鹿な……」

「せいぜいあなたたちの名前が出ないことを願うことね」


 私は魔封石に魔力を流し込む。


 よかった、複製しておいて。


 魔封石は壊れやすいですからね。

 ちなみに、後10個くらい予備がありますわ。


 そして、再び男女の声がパーティー会場に響く。

 

『――ああぁ……っ、んんっ……、はあっ、はあぁ……っ。だ、ダメぇ……っ』

『ダメとか言っておきながらっ、咥え込んで離さないじゃないかっ。本当はもっと、激しくやってほしいんだろ?』

『そんな……っ、ことっ……、な……いぃぃ……っ!』

『くっ。そろそろ出そうだ。1番奥に出してやるからっ、なぁ! マリア!』

『はっ……、激し……っ。ユリウスさ、まぁ……っ。んんっ……、イクッ。イグッ……イグイグイグイグッッッ――! んっ、はぁはぁ……っ。あなたでお腹いっぱぁい……』


 ……気持ちが悪い。心底そう思う。

 別にそういう行為を否定するわけじゃない。それを職業にしている方たちもいるから。


 でも、流石に目の前にいる2人の行為は音声を耳にするだけで全身に鳥肌が立つ。

 そのせいで、魔力の供給が乱れ、音が途切れてしまった。


 ……まあ、いいでしょう。もう聞く意味もない。

 流したいものは流せました。


 そう、それは――


「――名前。残念でしたね」


 しっかりと2人の名前が入っていた。

 私は元々、知っていましたが。


 ……そんなことよりも。


「ねぇ、お父さまの書斎で何をしていますの? そこにはお父さまの大事な書類が沢山ある。それなのにあなたたちはそこで何をしていますの? 答えなさい、マリア」

「ぃ、いや……ユリウス様が無理矢理――」

「――下手くそな嘘はいいです。濡れていたのでしょう?  お父さまの部屋で興奮していたのでしょう? ほんとっ、気持ちが悪い」

「ご、ごめんなさい……」

「謝って許される問題じゃないんですよ。結局、エスカレートして、お父さまの書斎で何回も何回も! 挙句にはロクに片づけずに部屋を出るなんて……。本当、最悪でしたよ。部屋に入った瞬間、思わず目を背けたくなる悪臭。部屋全体に撒き散らされてる白い液体。そして、どちらがしたのかは分かりませんが、お漏らしの跡。それはもう……地獄でしたよ。掃除してあげたことに感謝してほしいです」

「お姉さまが、掃除を……?」


 あぁ? 何か表情が一瞬、安堵に染まったような……


 もしかして、このことを私しか知らないとでも思ったのでしょうか。


「……呆れました。マリア、あなたは馬鹿なんですか? 私しか掃除していないなんてこと、あるはずないでしょう? あれだけパンパン腰打ちつけて、あんあん嬌声を上げていたら、使用人だって気づきます。使用人はみんな知っていますよ。あなたの醜態」

「そんなはずない……。だって……」

「態度がいつも通りだったから? そんなの演技ですよ。お父さまとお母さまにお話するまでの間、そうするよう私が言っておいたのです」

「お父さまとお母さまに? それだけはやめてください! お願いします! こんなこと二度としません! ユリウス様も返します! だから――」

「――嫌です」

「……え?」


 何ですか、その顔。当たり前じゃないですか。

 

 こんなこと二度としません、という言葉は何回も同じことをしたマリアに相応しくありません。


 それに、


「大丈夫ですよ。マリアだけではなく、国王陛下にもお話します。なので、2人一緒にどこまでも落ちていってください。そもそも、そのために私は魔法を完成させたのですから」

「ま、待て! 待ってくれ! 俺が悪かった。婚約破棄はなかったことにする! だから――」

「――は? 私、あなたが嫌いなんです。婚約破棄をなかったことにされても嬉しくありませんし、むしろ迷惑です。よかったじゃないですか。好きだったのでしょう? マリアのこと。相思相愛じゃないですか。マリア、よくお腹をさすっていましたので、子どもでもできたのではないですか?」

「俺は子どもなんかいらない! 遊びだったんだ! 俺が愛しているのはノルンだけだ!」

「クズですね。ゴミでどうしようもないあなたたちの子どもでも、尊い命なのでしっかり育ててくださいね。あなたの気持ちは受け取るだけ受け取って、後でゴミ箱に捨てておきます。――では、私はこの辺で。元々この後、国王陛下の下へ行く用事があったのですよ。そうですね……あなたのお姉さんたちにも聞いてもらいましょうかね。ふふっ、楽しみです」

「寄せっ! 早まるな! ――っ、この者を捕らえよ! 早く!」


 しかし、誰も動かない。

 ユリウスはもう、王子ではない。厳密に言うと、これから王子ではなくなる……ですけど。


 マリアはどうなるでしょうか。


 う~ん。私としては勘当では物足りないので、お父さまの決断に期待です。


 ……あ、そうだ。最後に言いたいことがあったんでした。


「マリア! この後、病院に行きなさいよ! ユリウスは何百人もの女性と関係を持った挙句、性病を患ってますので! よかったですね。沢山の方と姉妹になれて! あなた、私以外の姉妹がほしかったって言ってましたものね!」


                〈完〉


 





 


 





 




























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