ヒロインなあたしとパーティー開始

 やった、今日はついに断罪パーティーだ!!

 なんとエスコートはあの隠しキャラがやってくれることに。もう我儘わがままで気紛れなセルセのご機嫌取りをしなくてもいいんだ!

 ついにあたしは誰も見たことのない隠しキャラに会って攻略ルートに入ったんだ。


 朝からワクワクして正直授業なんて出てらんない気分だったけど、クロードは授業が終わって帰宅したら迎えに行くと言ってた。

 何となくだけど、もしあたしがサボってずっと家にいたら、あいつはそれを口実に迎えに来ない気がする。

 仕方ないからダルいのを我慢して学校に来てやった。


 登校早々、やたらと機嫌の悪いセルセがやってきた。

 なんかすっごくピリピリしてて、クラスメイトたちもドン引きしてる。せっかくイイ気分だったのに台無しだ。


「すまん、エステル。今日が最後だからどうしてもあの女をエスコートしろと父上がうるさくてな。その代わり、今日が終われば二度としなくて済むそうだ。今日はアッファーリかアルティストに頼んでくれ」


 そっか。王様が今日が最後って言ってるってことは、悪役令嬢も今日でお役御免なんだ。色々あって焦ったけど、やっぱりあたしが無敵のヒロインなんだ!

 無事に激ムズハーレムエンドを迎えて秘密の隠しキャラルートで誰よりもキラッキラのヒロインとして輝くんだ!!


「気にしないで。今日だけのガマンだもん。あたし、大丈夫!!」


 瞳を潤ませて、カワイイ声で健気に言えば、セルセも「なんと健気な」と勝手に感動してくれる。マジでチョロい。


 うきうきしながらこれからのハッピー溺愛ライフに想いをはせていると、あっという間に授業が終わった。


 急いで家に飛んで帰って、ドレスやアクセサリーを用意する。

 セルセに買わせたキラキラゴールドのドレスにヴィゴーレに買わせたキラキラ宝石の靴。アッファーリに買わせたでっかいダイヤのイヤリングにアルティストに買わせたごっついダイヤのネックレス。

 どれもこれもキラッキラでヒロインであるこのあたしにぴったりだ。

 プレゼントさせてやった奴らも、あたしにふさわしいものを贈らせてもらってさぞ喜んでるだろう。


 あたしが必要なものを揃えるやいなや、小綺麗なセンスの良い馬車がうちのしょぼい屋敷の表についた。中からは輝く赤い炎のように美しいクロードが降りてくる。


 完璧な笑みを浮かべたクロードに導かれて馬車に乗り込むと、まるで滑るようになめらかに動き出した。

 この世界の馬車ってガタガタ揺れて超ウザいのに、この馬車って乗り心地最高。売りに出したら大儲けできるかも。

 馬車の中はずっと無言だけど、クロードの芸術品みたいな顔をずっと隣で見れたから全然退屈なんかしなかった。


 月虹亭につくと、ババアが待ち構えてて手際よくドレスを着つけてくれた。

 今日のドレスは綺麗なゴールドのシルクをたっぷり使った、斬り落としたように大きく開いたオフショルダーのデコルテと、マトンレッグと言われる肘のあたりで大きくふくらんだ袖が特徴のドレス。

 ウエストはコルセットできゅっとしぼって、大きくふくらんだスカートで折れそうに華奢な細腰を演出する。


「さて、ドレスはこれで良さそうだから、今度はメイクだね」


  ババアは手際よくあたしの髪を高々と結い上げると、しっかりと逆毛を立ててふわふわに盛ってくれる。なんかキャバ嬢っぽいけど、キラキラしたラメみたいなのをたっぷり振りかけて、自慢のストロベリーブロンドがいつも以上にカワイく輝いてるから最高の気分だ。

 前髪やサイドの髪はしっかり巻いてふわっと顔の周りにおろし、耳には大ぶりのダイヤのイヤリング。

 仕上げに大きく開いたデコルテに存在感のあるネックレスをつけると、視覚効果で肩のラインが華奢に演出された。肘のあたりで大きく膨らんだ袖も、むき出しの肩を儚げで可憐に見せる効果があるんだって。


 鏡の中のあたしはヒロインにふさわしく、キラカワゴージャスに光り輝いている。お姫様のティアラがないのが残念だけど、きっと今日のパーティーでもらえるはず。


 理想のお姫様になったあたしは黙って柔らかな笑みを浮かべるクロードのエスコートで再び馬車に乗り込んだ。

 馬車を降りる時に昨日ゲットした香水をたっぷりかけて、王宮へと足を踏み入れる。


 案内された広間までに何人もの近衛兵が立って警備してた。さすがあたし、VIPだから大事に護られてるんだね。

 昨日のえらそうなオッサンもいたけど、緊張してるのか、なんか怖い顔であたしたちのことをじっと見てた。他にも何人かあたしをガン見してる奴がいて、正直言ってちょっとキモイ。


 広間に入ると、ヴィゴーレはもう来ていてマイヒャやコノシェンツァと何か話している。いつものしょぼいカッコじゃなくて襟や袖に金の刺繍があるゴージャスな軍服を着てて、ちょっとカッコイイと思ってしまった。胸元に並んだメダルやバッジが他の連中は一列だが、ヴィゴーレは二列になっていてちょっと不思議。

 マイヒャもいつもの白衣姿ではなくて黒地に金で刺繍をされたキレイなローブを羽織ってる。


 ここでもあちこちにピカピカの制服を着た騎士っぽい人が何人も警備に立ってた。

 中でも燃えるような紅い髪と金色の瞳のワイルドなイケメンがあたしのことをじっと見てて、クロードがいなかったらちょっとときめいてたかも。どこかで見たような気もするんだけど、こんなイケメン一度会ったら忘れないと思うんだよね。気のせいかな?


 やっぱりあたしって超VIPだし超絶美少女だからどうしても注目されちゃうんだよね。でも今はクロードがいるから相手してあげられなくて皆ちょっとかわいそう。


 アッファーリももう来てて、彼と同じ黄緑色の髪と瞳の渋いイケオジと一緒に何か話していた。あれが父親の財務大臣だろうか?


「クロード! 久しぶりじゃないか、どうしたんだ?」


「マシュー、本当に久しぶり。ちょっと野暮用でね」


 アッファーリの父親っぽいイケオジがこっちに気が付くと、あたしじゃなくてクロードに嬉しそうに声をかけてきた。どうやら知り合いらしい。

 話しかけられたクロードも嬉しそうに目を輝かせている。


「ねぇ、クロード。こちらの方、だぁれ?」


 きゃるんっ、とあたしは瞳を大きく見開き、最っ高にカワイイ顔をつくって首をかっくんして見せた。これでイケオジもあたしに夢中になるはず。


「……クロード、この子一体?まさか愛称呼びを許してるのか?」


「いや、そもそも名乗ってないし。名前も聞いてない」


 イケオジが不思議そうに首を傾げると、クロードは面倒くさそうに吐き捨てた。

 そう言えば、まだ名前を教えてやってなかったっけ。ちょうどいい、このイケオジに名乗ってやれば馬鹿なクロードも覚えるだろう。


「あたし、エステル・クリシュナンって言います。アッファーリとはすっごく仲良しなの。よろしくね」


 あたしの名乗りを聞いたイケオジはペリドットみたいな目を大きくみはると何度か瞬きしてからクロードに話しかけた。


「お前、どうしてまたこんなののエスコートを?」


「仕方ないだろ、どうしても断れない相手に押し付けられたんだ」


 呆れたように言うイケオジと心の底から嫌そうな顔のクロード。なんだか二人とも反応がおかしくない?

 あたしが抗議しようとしたところで、ちょうどセルセもやって来た。アルティストや悪役令嬢、ついでにお助けキャラまで一緒だ。


「どうやら君の王子様が来たようだね。僕の役目もここまでのようだ。

 行っておいで、お姫様」


 クロードは輝くようにふわりと笑うと、セルセたちの方を掌で示した。

 

「さあ、断罪パーティーの始まりだ。心置きなく楽しんでおいで」


 面白がるようなクロードの声に背中を押されて、あたしは輝く未来へと一歩踏み出したのだった。

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