ピンク頭と半熟坊や
アルティストからはその後も色々と言葉を変えて話を聞いてみたが、それ以上の情報は引き出せなかった。
だいぶ疲れている様子だったので、聴取後はまた馬車を呼んで家まで送り届けることにする。
「お疲れさま。おかげで相手の力量とどこに目星をつければ良いかわかったから助かったよ」
馬車の中でアルティストをねぎらうと、礼を言われるとは思っていなかったらしい彼は意外そうに目を
「……犯罪者扱いはブラフだったのか」
「ブラフではないよ。残念ながら、公務執行妨害については自業自得だからね。共謀者かどうかと訊かれれば判断するにはまだ早いと思うけど」
責めるように言う彼にあっけらかんと返すと、また視線を落として沈黙する。
どうやら居丈高な態度は不安のあらわれのようだ。
「俺はこれからどうなるんだろうか……まさか国家反逆罪だなんて……」
「まぁ、本当に王族を狙ったテロがあるのか、通報者が言ってるだけなのかも調査中だからね。公的な懲罰がどの程度のものになるかはまだわからないよ。
ただ、公爵閣下には本当に迷惑をかけたんだから、よくお詫びして話し合っておいた方がいいと思うな。
家族なんだから、きちんと誠意をもって向き合えば、ちゃんと相談には乗って下さると思うよ」
とうとう不安と焦燥を隠せずに震える声でぽつりと呟いた彼に、できるだけ安心させるような表情と声を心がけて公爵閣下と話し合うよう勧める。
閣下は幼ない時に彼を実の家族と引き離して
アルティスト自身が心を開いて助けを求めれば、決して
「……本当に最初から義父上のおっしゃる通りに聴取に応じていれば、罪に問われることもなかったのか」
「うん、そうだったかもね。故意にしつこく捜査の妨害しているから問題になった訳だし。どうして証言するのがそんなに嫌だったの?」
正直、なぜそこまで証言を拒むのかが不思議だった。
誰かに捜査の邪魔をするよう吹き込まれていたのだろうか。
「最初はお前の点数稼ぎに利用されてたまるかと……俺が証言を拒むことでお前の失態になるならと思って。そうしたら捜査が進まずに困った無能どもがうろたえて何度も頭を下げに来て……それを見るのが面白かったんだ。」
「つまり、僕が気に入らなかっただけ?あとはただの面白半分……そんなことのために、こんな大それたことを?」
「大それたって……ただちょっと約束をすっぽかしたりしただけだろう?それが何でこんなに大げさな事に……」
ああ、なるほど。
ただ僕への反感から嫌がらせのために証言を拒んでいたのか。そして騎士たちが振り回されて困る姿を見て愉しんでいた。
それがどんな意味を持つかわからないから、軽い気持ちで嫌がらせを愉しんでいたんだ。
「君にそんなつもりがなかったとしても、故意に捜査を妨害していた事には変わりはないんだよ。無知も無分別も、それ自体は罪ではないけれども、だからといって免罪符にもならないから」
悪戯を叱られた子供のようにむくれて呟く彼に、できるだけ優しく穏やかな口調でゆっくりと語り掛けた。
今のままでは、仮に何らかの処罰が下ったところで「何が悪かったか」全く理解できずに色々なものを逆恨みするだけだろう。
その逆恨みの対象が僕個人ならば構わないが、公爵閣下やこの国の司法制度に向いてしまっては、公爵家にとっても彼自身にとっても不幸を招くだけだ。
「どういう事だ?」
「してしまったことやその結果に対して、『知らなかった』『そんなつもりじゃなかった』っていくら言っても、言い訳として通用しないってこと。小さな子供なら家が守ってくれるだろうけど、大人になったら今度は自分が家を守る側にならなきゃいけないんだから」
理解できずに呆然と問い返す彼に、ゆっくりと心に届くように祈りながら語り掛け続ける。
何だか家を出て修業を始めたばかりの見習いたちに言い聞かせてるような気分。そう言えば、親元を離れて独立を決めたばかりの見習いたちにも、いつもこうやって自分の言動に責任をもつように言い聞かせてるっけ。
アルティストもまだ自分が近々自立するんだという事を理解していない……それどころか、自立するとはどういうことか、考えたこともないのだろう。
「……」
「本来なら十八の誕生日で成人だ。まだ学生だから半分子供扱いも許されるけど……それでも学園を卒業したらそんな言い訳も使えなくなる。
もう、自分の言動には自分で責任を取らないと」
黙ってしまった彼に、もう無条件に保護され庇ってもらえる時代は終わるのだと穏やかに告げる。
ここから先、何を考えてどう行動するかは彼次第だ。
「家を出て音楽家になるなら何をどうしなければならないかを、調べてできることを一つ一つしていかなければならないし、家を継ぐなら最低でも領地の収支の管理と議会での仕事くらいはできるようにならなければならない。いずれにせよ残された時間でできる限りの事をしていくしかないんじゃないかな」
黙りこんで何事かを考えている彼を静かに見守りながら、今からでも彼が現実と向き合って、自分自身の生きる道を見出せる事を祈った。
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